暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~

「お疲れ」
「お疲れさまでした」

夕方6時に副社長を見送る。
普段より幾分早いけれど、こんな日もあっていい。
副社長と同じように定時で仕事を終わらせた私も、デスクの片づけを始めた。

ブブブ。
ちょうどそのタイミングでスマホの着信。
見ると圭史さんからで、私は通話ボタンを押した。

『もしもし望愛ちゃん?』
「はい、お久しぶりです」
何度かメールはもらったけれど、声を聞くのはあのパーティー以来だ。

『今日はごめんね』
「えっと・・・」
咄嗟に何のことだか思い浮かばず、言葉が止まった。

『うちの事故の件で創介の機嫌が悪かったんだろ。望愛ちゃんが機嫌を取ってくれたって勇人から聞いたよ』
「ああ、それは・・・」

別に機嫌を取ったつもりは無い。
しいて言うなら、美味しいチョコで釣って少し話し相手をしたくらい。特別なことをした訳ではない。
二人の友人である谷口課長がどう説明したのかはわからないけれど、私はいつも通りの仕事をしただけだ。

『とにかくありがとう。縁戚とは言え一条コンツェルンに睨まれるとうちの会社も危ないからね』
テへへと笑う先輩。

「圭史先輩」
本気とも冗談ともつかない言葉に、私は返事ができなくなった。