暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~

「じゃあ、いいんですね?」
「ええ、調整いたします」

実際には何をするわけでもないけれど、そう言わなければ格好がつかなかった。

「では創介さん、後で連絡しますね」
嬉しそうに手を振って、綾香さんが駆けて行く。

フー。
お嬢様はやっと帰って行った。
本当に嵐のような人だったなあと、私も息をついた。

「鱧は良かったのか?」
不意に、副社長の不機嫌そうな声。

「だって、綾香さんがせっかく言ってくださったんですから」

一応メインバンクの頭取令嬢だし、ここで機嫌を損ねるのは得策でないと思えた。
それに、私に鱧なんてちょっと高級すぎて・・・

「行きたくないものを無理に誘うつもりは無いが、残念だな。この時期の鱧はうまいのに」
「すみません」
せっかく誘ってもらったのに申し訳ありませんの気持ちを込めて、私は頭を下げる。

その後、副社長は終始無言だった。
もちろん夕方からの約束のために仕事に集中したのかもしれないけれど、それだけでもない気がして、私はあまり近寄らずに遠巻きに眺めていた。