暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~

綾香さんが誘いに来たのは、近代美術館で行われているフランス絵画の展示会。
日本で見られるのは珍しいらしくて、テレビでも取り上げられている。
一条プリンスホテルでも絵画の展覧会は時々行われているので興味がある人も多く、一度見に行きたいなと秘書課でも話題になっていた。

「チケットがなかなか取れないんですよね?」
「そうなのよ。父がビジネスの参考にもなるだろうから二人で行ってきなさいって、せっかくとってくれたの」
「そうですか」
返事をしながら、私は創介副社長の方を見た。

「綾香さんお誘いはありがたいんだが、今夜は先約がありましてね」
チラッと、副社長の視線が私に向く。

「その予定って、どうしても今日でなくてはダメなんですか?」
少しだけ頬を膨らませ、甘えたような声。

すごいなあ。こんな風に言われたら、大抵の男の人は落ちる気がする。
たとえ仕事が入っていても、キャンセルしてしまうことだろう。

「ねえ坂本さん、今日の予定ってどうしても動かせないのかしら?」
「それは・・・」

先約って、きっと私との食事よね。
もしそうなら今日でなくても問題ない。

「あの副社長、本日のお約束は変更いたしましょうか?」

せっかく綾香さんが誘ってくださるんだからその方がいい。
相手はメインバンクのお嬢さんだし、わざわざ機嫌を損ねる必要もないだろう。

「それで、いいのか?」
なんだか挑んでくるような口調。

「ええ、大丈夫です」
私事で副社長の邪魔をしたくはない。