暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~

いくらメインバンクのお嬢様とはいえ、一般人であることには間違いない綾香さん。
普段から公私混同を嫌う創介副社長がすんなり部屋に入れたのも気になるが、私に向けられた視線もなかなかに険しかった。
もしかして恋人?
いやいやまさか。もしそうなら副社長が私を食事に同行させるはずがない。
それにここ数ヶ月見ていても、副社長に女性の影は感じられなかった。


「お待たせしました」

コーヒーを淹れて副社長室に戻ると、デスクの前に立つ綾香さんの姿があった。
どちらかというと一方的に綾香さんが話している印象で、創介副社長は聞き役。
にこやかではないけれど、静かに耳を傾けているって感じだ。

「ねえ創介さん。父もぜひって言うんですから、ご一緒しましょうよ」
「しかし・・・」
「父の名前を出せば創介副社長は断らないはずだって言っていたんですよ」
「それは・・・」

珍しい、副社長の困り顔。
いつもはあんなに横柄にものを言うくせに、今日はどこかおかしい。
綾香さんはそれだけ特別な存在ってことかしら。

「ねえ、坂本さんからも言ってください。せっかく父がチケットを用意してくれた絵画展に創介さんが行くって言わないんですよ」
「はあ、それは・・・」
私に言われても困るのだが。