暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~

「あらあら、お洋服が汚れましたねぇ」
店の奥から現れた品のよさそうな婦人が、私のブラウスとスカートを見ている。

「うっかりトマトジュースをこぼしてしまいまして」
さすがに血まみれのスプラッタではないぞと主張してみた。

「こぼれたんじゃなくて、かけられたんだ」
「副社長、そこはいいんです」
余計な事は言わないでくださいと睨んでしまった。

「お前こそ、社外では役職で呼ぶな。『副社長』と呼ばれるたびに人が見る」
「でも・・・」

困ったぞ。
今のところ副社長以外に呼んだことが・・・

「ちなみに、『一条さん』はダメだぞ。周りにたくさんいる。『あの・・』とか『ちょっと』でごまかすのも却下だ」

うっ。
これって絶対に副社長の意地悪だわ。
でもね、こうやって追い込まれると燃えるのが私。だから、

「創介さんでいいですか?」
何のことはない顔で言ってやった。

「ああ。それでいいよ、望愛」

ポッ。
瞬間耳まで熱くなってしまった。
悔しいけれど、どうやら創介さん方が一枚上手だったらしい。

「さあどうぞ、お似合いの服をお選びしますわ」

なぜか楽しそうに笑っている創介さんを残し、私は店の奥へと案内された。