暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~

「あの、どこへ行くのでしょうか?」
「もうすぐだ」

幸いなことに、重役専用のエレベータで地下の駐車場まで下りる間誰にも会うことはなかった。
目の前に停まっている高級外車に乗れと言われた時にはさすがに怯んだけれど、ここでじっとしていてもどうしようもないと助手席へ乗り込んだ。

「好みのブランドがあるかもしれないが女性のファッションには疎くてね、うちが行きつけにしている店があるから今日のところはそこで勘弁してほしい」
「いえ、そんなことしてもらわなくても・・・」
私はホテルの制服を貸してもらえば十分なのに。


車は都心のど真ん中を進み、高級ブティックが並ぶ通りで停まった。
店の前のスペースに駐車した私たちを、出てきたスタッフが待っている。

「うわ、すご」
誰でも知っている超有名ブランドの名前が書かれたビルを前に、ついこぼれた言葉。

「さあ、行こうか」
「え、ええ」

きっともう2度と来ることはないだろうブランドショップに、一見血染めに見えるブラウスを着て男物のジャケットを羽織った自分が入って行くのがとても恥ずかしい。
本当ならもっとオシャレをして、きれいな格好で来たかった。
でも仕方ない。ここまで来たら覚悟を決めてついて行こう。