暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~

課長と龍ヶ崎夫人が出て行った副社長室で、私はソファーに座っていた。

「今日の午前は会議も来客の予定もなかったよな?」
「ええ」

昨日はパーティーで遅かったはずだから、午前中はゆっくりしてもらうつもりでいた。
一応溜まっていた書類の整理ができるように用意をしているけれど。

「じゃあ少し出かけるか」
「出かけるって・・・」
どこに?

「その服のままじゃ困るだろ?」
「それはそうですが、後でホテルの制服をお借りしようと思っていて」
「制服で家まで帰る気か?」
「ああ、それは・・・」
考えていなかった。

でも、一条プリンスホテルくらいの所なら一日あればクリーニングも出来るんじゃないだろうか。
いや、きっとできるはず。

「クリーニングに出せるか聞いて」
「いいから、ほら出かけるぞ」
「え?」

腕を引かれソファーから立ち上がると、バサッと肩から上着をかけられた。

「あの・・・」

これって副社長の上着。
どうして?

「そのままじゃ血まみれみたいだ。しばらくかけていろ」
「しかし・・・」

確かにこのままではかなり人目を引くだろう。
だからと言って男性物の上着を肩にかけて歩く姿も痛い気がする。

「ほら、行くぞ」
いつの間にか背中に回された手に押され、私は歩き出すしかなくなった。