暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~

私は引っ越しを機に重さんとの同居をしたいと申し出た。
それは創介との結婚が決まってからずっと思ってきたことだった。
家庭の温もりを知らずに育った創介と、息子を失って以来一人暮らしを続ける重さん。
せめてこれからの時間を家族として過ごさせてあげたいと思った。

「俺はかまわないが、年寄りとの同居なんて望愛が煩わしいんじゃないのか?」
「そんなことないよ。家族は多いほど楽しいわ」
「そんなものかな」

もちろん重さん自身に聞いてみないとわからないけれど、父さんの話では反対はされないだろうとのことだった。

「望愛がそうしたいなら俺は反対しない。正直俺には家族との暮らしってもの自体がよくわからないからな。ただ、一条の家も新しくはないから手を加えるか立て直すか、離れを増築するかしないといけないだろうが」
「うん、そうね」

長いこと使用人との暮らしを続けた重さんだから、いきなりの完全同居よりも離れを建てて隣に暮らすくらいがいいのかもしれないと父さんも言っていた。幸い一条家には土地もお金もあるから困ることは無いだろう。

「俺も一度じいさんと話してみるよ」
「お願いします」

ごくごく普通の一般家庭から一条家に嫁ぐことには、もちろん不安もある。
でも、私には創介がいてくれるからやっていけると信じたい。
どんなことがあっても、創介を信じて生きていこうと私は心に決めていた。




fin