「おい、大丈夫か?」
廊下に飛び出して来た創介副社長は倒れた私に声をかけ、ためらうことなく抱え上げてしまった。

自分では起き上ることもできないとはいえ、こんなところで抱きかかえられるなんて恥ずかしすぎる。
もちろん私も必死に抵抗しようとした。

「あの、降ろしてください。本当に」
大丈夫ですからと言おうとするのに、
「お前の大丈夫がどれだけあてにならないかよく知っているよ」
と聞いてはもらえない。

「今日はこのまま送って行くからな」
宣言するように、創介副社長は廊下を進みだした。

こうなったら絶対に引いてはくれないだろう。
数ヶ月側で仕えてきた私にもそのことはわかる。
しかし、それではまずいのだ。

「待ってください。風邪をひいた私がこのまま家に帰る訳にはいかないんです」

私にだって事情がある。
そのことは絶対に譲れないとはっきり言うと、創介副社長の動きが止まった。

「どういうことだ?」
歩みを止め、私を一旦降ろし、訝し気な顔を向ける。

こうなったら話すしかないだろう。
わざわざ人様に言うことでもないけれど、このままでは創介副社長を納得させることはできない。