新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

「失礼致します。お茶とおしぼりをお持ち致しました」
店員さんが入ってきて、お茶とおしぼりを夏目さんの前に置く。
「そろそろ、お食事の用意をさせて頂いても、よろしいでしょうか?」
「はい。お願いします」
「お飲み物は、如何致しましょうか?」
「夏目さん。何、飲まれますか?」
「私ですか? 私は……」
「先輩。ビールですよね? 生ビール」
「えっ? 皆さんは、何を?」
夏目さんが、高橋さんに問い掛けた。
「私は車なので……。折原。お前もビールだろう?」
「勿論」
「そうしたら、生ビールを2つとウーロン茶を2つ……」
「あれ? 矢島さんは、お酒飲まれないんですか?」
エッ……。
「あの……」
「今、ちょっと怪我をしてまして、アルコールは飲めないものですから」
「そうなんですか」
「取り敢えず、それでお願いします」
「かしこまりました。ご用意させて頂きますので、しばらくお待ち下さいませ」
店員さんが出て行くと、直ぐに夏目さんに話し掛けられた。
「怪我は、大丈夫なんですか? 脚?」
夏目さんの視線が忙しく動いて、顔、左右の手等を見た後、そう尋ねられた。
「はい。左足を、ちょっと……」
「そうなんですか。それは、大変でしたね。普段何気なく生活しているけれど、どこか一箇所でも怪我をすると、本当に一気に不自由になったりしますから。日頃の健康の有り難みが身にしみますよね」
「はい」
「それが、先輩。通勤途上の労災だから、結構大変だったんですよ」
「そうだったの。労災の認定でも色々あるからね」
何故か、私の足の怪我の話になってしまい、何だか恥ずかしい。
「でも、先輩の会社は、直ぐに労災認定されるんじゃないですか?」
「うーん……。どうだろう? 現場だと隠しようがないから、即、問答無用って感じかしら」
現場?
「やはり、現場だと怪我とか多いんですか?」
「そうですね。確かに、危険と隣り合わせみたいなところもありますから、現場に入ったらいつも緊張感持っていないと、ふと気が抜けた時に往々にして怪我をしたりします。ですが、怪我と言っても切った、ぶつけたとかは日常茶飯事ですから、いちいち病院行ったりはしないですね。本当はいけないのかもしれませんが、私自身に至っては、よっぽど縫わなければいけないとか、骨折だとかでない限りは……という感じのレベルです。勿論、自分の担当のことで事故が起きれば、労災如何に関わらず申告は当然しますし、協力業者の人達の申告もその会社に打診します」
な、何か、凄い……。
「先輩は、現場責任者みたいな感じですものね」
「電気だけは……ね」
夏目さんは、現場責任者なの?
「やはり、追い込みになれば、そうも言っていられないというところですか?」