新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

中原さんと同時に返事をして高橋さんを見たが、後ろめたい気持ちがどうしても働いてしまい、直ぐに目を逸らせてしまった。
いつもならば3人一緒に事務所を出るのだが、今日は急いで支度をして先に帰ろうと思っている。
今週は、毎日帰りは高橋さんに家まで車で送ってもらっていて、普段だったら嬉しいはずなのに、それが月曜日から日ごとに苦しく辛くなっていた。
「あの、すみません。ちょっと寄りたい所があるので、お、お先に失礼します」
「お疲れ様」
「矢島さん。お疲れ様」
高橋さんと中原さんは、何も聞かずに挨拶をしてくれたのでIDをスリットさせて、ホッと胸を撫で下ろしながらエレベーターを待っていた。
けれど、この安堵感は上辺だけの見せかけで、本当は高橋さんを裏切ってしまったことで罪の意識でいっぱいだった。
「来週の半ばぐらいで目処がつけば、御の字ですよね」
「出来れば、そう願いたい」
嫌だ。
左足がまだ思うように言うことを効かないのと、なかなかエレベーターが来ないから高橋さんと中原さんと一緒になってしまった。
「あれ? 矢島さん。一緒になっちゃたね」
「は、はい。なかなか、エレベーターが来なくて……」
結局、3人でエレベーターに乗り、2階で中原さんと一緒に降りた。
「中原。鍵、頼むな」
「はい。お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
「お疲れ様」
高橋さんに挨拶をしてエレベーターを降りて、中原さんがペースを合わせてくれたので、警備本部の方に向かってゆっくりと歩いて行く。
中原さんが鍵を返して、駅まで一緒に帰ることになった。
「足、まだ痛むの?」
「いきなり曲げたり、力を入れたりするとまだ痛いですが、普通にジッとしている時の痛みはなくなってきたので、だいぶ楽になりました」
「そう。でも、あまり無理しない方がいいよ」
「はい。ありがとうございます」
中原さんは、本当に優しい。
「高橋さんも、凄く心配してるよ」
「えっ? そ、そうですか……」
その高橋さんを、私は……。
「でなきゃ、毎日、矢島さんの家まで送っていかないと思う。誤解しないで欲しいんだけど、別に変な意味じゃなくて、決算で忙しい時期なのに、早く上がって矢島さんを家まで送っていって、それからまた会社に戻って仕事してるらしいから」
エッ……。
嘘でしょう?
「そ、それ、本当なんですか?」
「うん。財務の奴が言ってた。会計はみんな早く上がるけど、高橋さんはまた暫くして会社に戻ってきて仕事してるんだよ。面白い人だよなって言われたから」
そんな……。
私のために? 私を送ってくれるためにわざわざ1度退社して、それから戻ってきてまた仕事してるなんて。
「足、早く治るといいね」
「中原さん。私……」
「ごめん。今の話は、聞かなかったことにして。俺、余計なこと言っちゃった。あっ、俺、こっちだから。矢島さん。気をつけて帰ってね」
「はい。お疲れ様でした」