新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

そ、そんなに、はっきり言わなくても……。
「どうして、宮内とかいう輩のために、あんたが高……。いや、ハイブリッジとのデートの約束を取り付けなくちゃいけないのよ?」
「そ、それは……。でも、まゆみ。そうしないと、高……」
慌てて口を押さえ、周りで誰か聞いていないか確かめてから小声で話の続きを始めた。
「だって、高橋さんの家に泊まったことをみんなにばらされたら、高橋さんに迷惑がかかってしまうから。だから、私……」
「陽子。あんた、利用されてるだけなんだよ? 分かる? デートなんてもんは、当事者同士で会う日時や場所を決めるものであって、他人がお膳立てしてやるデートなんてのは、お見合いぐらいしかないわよ」
「でも……」
確かに、利用されているのかもしれない。だとしても、高橋さんにやっぱり迷惑をかけたくない。
「宮内って、営業何課?」
「営業2課だけど……」
「そう。後で、見に行ってみるわ」
エッ……。
「ちょ、ちょっと、まゆみ。変なことしないでよ? お願いだから、宮内さんには何も言わないで」
まだ、土曜日に高橋さんと会う約束が出来たことさえ、宮内さんに連絡していない。まゆみが宮内さんに何か言ってしまうと、それこそ本当に高橋さんとのことをばらされてしまいそうで怖い。
「分かってるわよ。下手に動いたら、逆に向こうの思う壷だから」
良かった。それを聞いて、安心した。
「でも、どうしても腑に落ちないんだけどなあ……」
「えっ? 何が?」
「だって、そうでしょう? これだけ見え見えな陽子の嘘を、どうしてあの鋭いハイブリッジが気づかなかったのか。不思議でしょうがないわ。どうも読めない、手繰れない、ハイブリッジの思考回路。なーんか、引っ掛かるんだよなあ」
まゆみ……。
ランチが終わって事務所に戻ると、高橋さんが難しい表情をしながら電話をしていた。
「戻りました」
「お帰り。悪いが13時半から会議だから席外すが、あと10分ぐらいで中原もランチから戻ってくるから、それまで1人だけど頼むな」
「は、はい。いってらっしゃい」
電話が終わった高橋さんはそう言うと、書類を持って会議に行ってしまった。
中原さんも、あと10分ぐらいで帰ってくる。それまで1人だけど、頑張らなきゃ。
1人……。