高橋さん。本当は……。
「何時?」
あっ、時間。
「えーっと……。高橋さんは、何時頃がいいですか?」
「俺は何時でも構わないが、お前はその前に何か用事があるんじゃないのか?」
「あっ。そ、そうでした。そうですよね。すみません。うっかりしてました」
うわっ。
危なかった。すっかり待ち合わせの前に、何処かに寄ってくることなんか忘れていた。何時にしよう。ええい、もう15時でいいかな。
「じゃ、じゃあ、15時でもいいですか?」
「15時な」
「はい。よ、よろしくお願……」
「駅ビルの、何処で待ってればいい?」
「えっ?」
ど、何処って……。
どうしよう。そこまで考えてなかった。
「あの……」
「3階の一番奥のカフェでいいか?」
「は、はい」
良かった。高橋さんが知ってる場所で、助かった。
エッ……。
ホッと胸をなで下ろしながらテーブルの木目をぼんやり見ていると、何となく視線を感じて顔を上げた。
すると、高橋さんがジッとこちらを見ていた。
な、何?
高橋さんに捉えられた私の瞳は、その視線を外すことができない。
「あの……わ、私の顔に、何か付いてますか?」
「いや、別に」
うわっ。
何だか、険悪なムードだな。高橋さんに、ひと言で片付けられてしまったので間が持たない。
「そ、そうですか……」
「さて、そろそろ帰るか」
「は、はい」
高橋さんのその言葉を待っていたというか、今日ほど高橋さんと一緒にいるのに早く家に帰りたいと思ったことはなかった。
「あっ。今日は、私が」
「いい。お前には、まだフルコースをご馳走してもらってないからな」
うっ。
それを言われると、何も言い返せなくなってしまう。
「ご馳走様でした。送って下さって、ありがとうございました」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
遠ざかっていく高橋さんの車を見つめながら、心の中は嵐のように強風が吹き荒れていた。
高橋さん……。ごめんなさい。
車の中でも、あまり会話がなかったな。話せなかったし、高橋さんの顔をまともに見られなかった。
もう、後戻りはできないんだ。
宮内さんに言われた通り、高橋さんに土曜日に渋谷で会う約束を交わすことができたけれど、それは同時に高橋さんを裏切ることになってしまった。
こんなこと……許されるわけないよね。
重い足取りでエレベーターに乗ると、壁に背中を押しつけながら、不意に高橋さんの悪戯っぽく笑う顔が思い浮かんだ。
あの笑顔が好きだったのに、その笑顔を曇らせるようなことをしてしまった私は……。
そして、明日、宮内さんに連絡しなければならないと思うと、尚更、暗い気持ちになって、自己嫌悪に陥りながら布団を被って眠りに就いた。
翌朝、言ってしまったことを後悔しながら会社に向かう。本当は、こんな気持ちで会社に行きたくないし、まして高橋さんに会うのが辛いというのが本音だ。どんな顔をして会えばいいのだろう。難しいことじゃないのに、高橋さんの顔をまともに見られないような気がして心なしか緊張しながら事務所に入ると、もう高橋さんも中原さんも来ていた。
「何時?」
あっ、時間。
「えーっと……。高橋さんは、何時頃がいいですか?」
「俺は何時でも構わないが、お前はその前に何か用事があるんじゃないのか?」
「あっ。そ、そうでした。そうですよね。すみません。うっかりしてました」
うわっ。
危なかった。すっかり待ち合わせの前に、何処かに寄ってくることなんか忘れていた。何時にしよう。ええい、もう15時でいいかな。
「じゃ、じゃあ、15時でもいいですか?」
「15時な」
「はい。よ、よろしくお願……」
「駅ビルの、何処で待ってればいい?」
「えっ?」
ど、何処って……。
どうしよう。そこまで考えてなかった。
「あの……」
「3階の一番奥のカフェでいいか?」
「は、はい」
良かった。高橋さんが知ってる場所で、助かった。
エッ……。
ホッと胸をなで下ろしながらテーブルの木目をぼんやり見ていると、何となく視線を感じて顔を上げた。
すると、高橋さんがジッとこちらを見ていた。
な、何?
高橋さんに捉えられた私の瞳は、その視線を外すことができない。
「あの……わ、私の顔に、何か付いてますか?」
「いや、別に」
うわっ。
何だか、険悪なムードだな。高橋さんに、ひと言で片付けられてしまったので間が持たない。
「そ、そうですか……」
「さて、そろそろ帰るか」
「は、はい」
高橋さんのその言葉を待っていたというか、今日ほど高橋さんと一緒にいるのに早く家に帰りたいと思ったことはなかった。
「あっ。今日は、私が」
「いい。お前には、まだフルコースをご馳走してもらってないからな」
うっ。
それを言われると、何も言い返せなくなってしまう。
「ご馳走様でした。送って下さって、ありがとうございました」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
遠ざかっていく高橋さんの車を見つめながら、心の中は嵐のように強風が吹き荒れていた。
高橋さん……。ごめんなさい。
車の中でも、あまり会話がなかったな。話せなかったし、高橋さんの顔をまともに見られなかった。
もう、後戻りはできないんだ。
宮内さんに言われた通り、高橋さんに土曜日に渋谷で会う約束を交わすことができたけれど、それは同時に高橋さんを裏切ることになってしまった。
こんなこと……許されるわけないよね。
重い足取りでエレベーターに乗ると、壁に背中を押しつけながら、不意に高橋さんの悪戯っぽく笑う顔が思い浮かんだ。
あの笑顔が好きだったのに、その笑顔を曇らせるようなことをしてしまった私は……。
そして、明日、宮内さんに連絡しなければならないと思うと、尚更、暗い気持ちになって、自己嫌悪に陥りながら布団を被って眠りに就いた。
翌朝、言ってしまったことを後悔しながら会社に向かう。本当は、こんな気持ちで会社に行きたくないし、まして高橋さんに会うのが辛いというのが本音だ。どんな顔をして会えばいいのだろう。難しいことじゃないのに、高橋さんの顔をまともに見られないような気がして心なしか緊張しながら事務所に入ると、もう高橋さんも中原さんも来ていた。

