新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

高橋さんに私が話さないと、大変なことになってしまうかもしれない。もし、もしも、それで高橋さんの立場が悪くなったりしたら……私は……。
『今度の土曜日に会う約束してくれる? 待ち合わせ場所は、渋谷の駅ビルにしてくれるかしら? 時間とかは任せるけど、色々準備があるから、なるべく早めに決めて内線で連絡して』
話さなければいけないことならば、今、言ってしまって早く終わらせたい。
「高橋さん。こ、今度の土曜日は、何か予定ありますか?」
「今度の土曜日?」
言ってしまった。話してしまった、高橋さんに。
もう、後戻りはできない……。
「土曜日、明良の病院に行くのか?」
「えっ? あっ、そ、それは来週に……」
高橋さん。何処までも、私のことを心配してくれている。それなのに、私は……。
「あの、土曜日なんですが、渋谷でお会いできませんか?」
「渋谷?」
「は、はい」
唐突に言った私の言葉に、高橋さんが小首を傾げながら聞き返してきた。
「構わないが、何時頃渋谷に行きたいんだ? それに合わせて、迎えに行くぞ?」
エッ……。
「あ、あの……。そ、それは、ちょっと困るんですが……」
「困る?」
「えーっと、その……」
「何処か、その前に寄ってくるのか?」
その前に寄って?
そうだ!
「そ、そうなんです。ちょっと、他にも寄るところがあって、それからなんで……」
高橋さんに、あまりにも出たとこ勝負だってことが見え見えで、こんな出任せが通じるわけないよね。
「そうか。で? 渋谷の何処に、何時に行けばいいんだ?」
「えっ?」
嘘……。
通じちゃった?
高橋さんに、通じちゃったの?
「お前、何をそんなに驚いた顔してるんだ?」
「えっ? あっ、いえ、そ、そんなことないです」
「だから、渋谷の何処に、何時なんだ?」
「あっ。すみません。それは……」
『待ち合わせ場所は、渋谷の駅ビルにしてくれるかしら? 時間とかは任せるけど、色々準備があるから、なるべく早めに決めて内線で連絡して』
宮内さんに言われたことを、思い出していた。
渋谷の駅ビル。
「渋谷の駅ビルに」
「駅ビルだな」
すると、高橋さんが手帳を出して、土曜日の欄に記入している。