新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

エッ……。
「社長だから頭は下げないのではなく、社長だからこそ、頭を下げる時は下げる。誠意を示し、謝意を表す。これは社長でなくとも、人間として大事なことだ」
「しかし……」
「今、我が社は、体裁や見栄を張れるほどの地位にはない。その我が社の社長は、私だ」
「……」
社長の言葉に、副社長も営業部長も黙ってしまった。
そして、具体的な交渉等は、今後順次決めていくこととなり、今は国際線のLCCを軌道に乗せるために新しいエアバスの納期に併せ、もう認可は下りているので、来年の3月に国際線のLCCを就航することが決まった。
会議が終わり、事務所に戻ろうと高橋さんと一緒にエレベーターに乗ると、事務所のある22階を高橋さんが押してくれたが、エレベーターには高橋さんと私しか乗っていないのに、18階も一緒に押していた。
あれっ? 何でだろう?
確か、この後はもう会議はなかったはずだけど……。
不思議に思って高橋さんの方を見たが、ちょうど18階に到着してしまった。
「俺、ちょっと総務に寄ってから戻るから、先に戻ってて。1人で大丈夫か?」
「あっ、はい。行ってらっしゃい」
先に高橋さんが降りたので、私は1人でそのままエレベーターに乗っていた。
総務?
何だろう?
漠然とそんなことを考えながら、事務所に先に戻って決算締めの忙しさで書類の処理に追われていると、高橋さんが総務に寄ってから戻ってきたことすら忘れて仕事に没頭していた。

「こんな時間か」
「本当だ。もう20時ですね」
「そろそろ切りのいいところで、今日は終わりにしよう」
「はい」
「矢島さんも、終わりにして」
「は、はい」
なかなか計算が合わなくて、何度もやり直していて時間のロスをしていたが、ちょうど合ったのでホッとしていたところだった。
IDをスリットさせてエレベーターを待っていると、高橋さんが事務所の鍵を閉めて後ろからやってきた。
「中原。悪いが、また鍵返しておいてくれるか」
「はい。分かりました」
「頼むな」
「はい。それじゃ、お疲れ様でした」
「お疲れ様で……」
2階に着いて降りようとすると、後ろに居た高橋さんに腕を掴まれた。
「矢島さんは、送っていくから乗ってて」