新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

新幹線や高速バス、マイカー利用がターゲットって……。
高橋さんの頭の中は、いったいどれくらい先までのことを考えているのだろう?
想像を絶する考えというか発想に、出席者全員が一斉に高橋さんを見ている。
「君は、会社を潰す気か!」
副社長の怒号が、会議室内に響いた。
「新幹線や高速バスと競い合ってまで、激安チケットを売らなければならないほど、航空業界は落ちぶれてはいないぞ」
何も、喧嘩腰にそんな言い方しなくても……。
「業界そのものが、頭打ちにはならないのかね?」
すると、穏やかな口調で営業戦略担当部長が言葉を発した。
営業部長の直ぐ下の人だ。営業戦略担当部長は、よく人事にも顔を出していたので顔は知っていた。
「はい。底値は限られていると思いますが、いずれLCCは国際線に準じて国内線にも普及してくるはずです。今、海外のLCC路線は、上海・千歳便等、2路線が日本に就航しておりますが、この先もっと増えてくることは想像できます。そうなった段階で、後手に回っている国内航空会社としましては、まず国際線のLCC路線の確立。並びに就航路線の拡大を図りつつ、国内線にも着手していかなければなりません。そのためにも、まず国際線の安定需要供給路線を見出し、更なる拡大を図らなければなりませんが、その際、着目する最重要項目は、国内需要ではなく、海外需要の観点から考えるのが盤石の基礎ではないかと思います」
「と、いうと?」
営業戦略担当部長は凄く興味を示しているようだったが、周りを見渡すと、怪訝そうな表情で話を聞いているのは、副社長と営業部長だけだった。
みんな、上の人達も必死なんだ。この経営危機を早く脱したいと誰しも思っている。現に、私が入社してからベースアップは、ほんの少しだけで、ボーナスも殆ど変わらない状態。だけど、お給料が出るだけましで、ボーナスまでもらえることに感謝しないといけないと人事に居た頃、福本さんに言われて私自身も納得していた。きっと上の人達も、何時か、この危機を脱する日を望んでいるんだ。
「たとえばですが、成田・香港、関空・仁川というLCC路線があったとします。その際、どうしても慣例で、国内顧客を基準に様々なことを考えてしまいそうですが、それが従来のレギュラー路線であれば当然のことだと思います。しかしながら、LCCに至っては、それだけでは成り立ちません。この路線を利用する顧客の中には、チケットが安いから初めて飛行機に乗るという海外の方もいらっしゃると思います。成田から、関空からではなく、香港から、仁川から日本に行くというように、LCC路線に関しましてはグローバルな観点から捉えなければ、既存の他社LCC路線に割って新たに参入していくのは難しいと思います」