新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

エッ……。
そのひと言で、会議室内がざわめきだった。
あの日本エアグループが、LCCに参入するなんて信じられない。
「そしたら、我が社は勝ち目がないじゃないか」
副社長が唐突にそんな言葉を発し、不穏な空気が会議室内に流れ始めている。
副社長の意見に賛同する人、先行きを不安に感じ、黙って表情を曇らせる人等、様々だったが、皆、高橋さんの次の言葉を待っているようだった。
「高橋君。遠慮なく、単刀直入に話してくれないか」
ざわめいていた会議室内だったが、社長のひと言で、水を打ったように静まり返った。
「はい。それでは、説明の途中ですが、先にその件に関しましてお話させて頂きます」
こんな時でも、高橋さんは本当に冷静だ。心が乱れることや、焦ることとはおよそ無縁のよう。
「LCCを導入することに際し、いつ頃からという時間的なことまでは、分かりませんでしたが、他社も参入してくることは想定しておりました。この2年間で、だいぶ航空業界も様変わりしております。我が社は黒字転換までに、まだもう少し時間がかかりますが、懸案となっていた大物の赤字撤廃は、だいぶ進んでおります。このまま行けば、あと5年以内には黒字転換ができる見通しになってきましたが、まだまだ当初の予定にあった修繕等は半分を残しております。LCCを導入しつつ、修繕等を済ませた段階で1度クリアにし、そこから黒字転換を目指して行きたいと思っておりますので、今現在、他社がLCCに参入してきたとしても、我が社の営業収益はさほど変わらないと思われます」
「しかし、あっちには公的融資という強い味方が付いているんだよ? 同じ土俵に乗ったらライバルどころか、負けるのは目に見えてるんじゃないのかね?」
「いいえ、それは違うと思います。もし、本当に日本エアグループさんが参入するのであれば、環境をまず整えなければなりません。仮に去年から準備をされていたとしても、その認可が下りるまでにどれだけの日数を要しますか? それは、我が社が一番理解出来ている部分だと思います。その認可が下りてからの準備になるわけですから、受け皿の提携航空会社がすでに決まっていたとしても、今の段階では少なくともあと2年はかかると思われます」