「フッ……。俺に説教しようとか、百万年早い」
ひゃ、百万年?
「そんな説教だなんて、思ってないですよ。ただ……」
「ただ、何だ?」
とてもじゃないけど、やっぱり言えない。仕事している時の高橋さんと、仕事終わってからの高橋さんとじゃ、まるで別人のようで、高橋さんが2人居るみたいだなんて……。
だけど、それ以上に気になっていることがある。さっき来た営業2課のあの女の人は、いったい高橋さんとどんな関係なんだろう? 休みの日に、しかもかなり遅い時間に自宅に来るなんて。
だいたい、どうして営業2課のあの女の人が、人事部でもないのに高橋さんの自宅を知っているのだろうか。多分、管理職ではないはずだから、同じ担当か、高橋さんが教えない限り住所は知らないはず。管理職であれば、管理職名簿を持っているはずだから分かるだろうけれど……。
「言いたいことがあるなら、臆せず言っていいぞ?」
「あの……」
「ん?」
言い掛けた私を見て、高橋さんがダスターをソファーの前のテーブルに置いて隣に座った。
「あの方は……」
「あの方?」
「その……。あの……さっきいらしていた方は……。高橋さんの彼女ですか?」
「……」
きっと、今のひと言で高橋さんは分かっているはず。でも黙っているということは、話したくないのかもしれない。
「あっ、あの、聞いたらまずかったですよね。すみません。聞かなかったことにして下さい」
「……」
それでも黙って何も言ってくれない高橋さんに間が持たなくて、飲みかけだったアールグレイ・ベルガモットを一気に飲み干した。
すると、高橋さんが黙って空いたマグカップを両手で持っていた私から取ると、テーブルの上に置いてあったダスターと一緒にキッチンへと持って行き、カウンターにのせてまたソファーに戻ってきた。
「すみません。ご馳走様でした」
「少しは、落ち着いたか?」
「はい……」
本当は落ち着いたとは決して言えない状態だったけれど、無理矢理浮遊状態にある思いをねじ込んで落ち着けようとしている。
「そう。良かったな。じゃあ、シャワー浴びてくる」
「はい。行ってらっしゃい」
迷いなどないといった体で、立ち上がってバスルームの方へと歩き出した高橋さんの背中に向かって返事をした。そしてバスルームのドアノブに手を掛けようとした高橋さんの後ろ姿を見て、何て馬鹿なことを聞いてしまったんだろうと、後悔の思いでいっぱいになって視線を自分の膝に戻した。
「彼女は、何でもない」
エッ……。
その声に、慌てて高橋さんの方を見ると、高橋さんがバスルームのドアノブに手を掛けたまま、こちらを振り返っていた。
「彼女は、大学の後輩だ」
「あの、でも……」
高橋さんは、そのままバスルームに入ろうとドアを開けかけたが、私が話し掛けたので、少し上半身を仰け反らせるようにして顔をこちらに向けた。
ひゃ、百万年?
「そんな説教だなんて、思ってないですよ。ただ……」
「ただ、何だ?」
とてもじゃないけど、やっぱり言えない。仕事している時の高橋さんと、仕事終わってからの高橋さんとじゃ、まるで別人のようで、高橋さんが2人居るみたいだなんて……。
だけど、それ以上に気になっていることがある。さっき来た営業2課のあの女の人は、いったい高橋さんとどんな関係なんだろう? 休みの日に、しかもかなり遅い時間に自宅に来るなんて。
だいたい、どうして営業2課のあの女の人が、人事部でもないのに高橋さんの自宅を知っているのだろうか。多分、管理職ではないはずだから、同じ担当か、高橋さんが教えない限り住所は知らないはず。管理職であれば、管理職名簿を持っているはずだから分かるだろうけれど……。
「言いたいことがあるなら、臆せず言っていいぞ?」
「あの……」
「ん?」
言い掛けた私を見て、高橋さんがダスターをソファーの前のテーブルに置いて隣に座った。
「あの方は……」
「あの方?」
「その……。あの……さっきいらしていた方は……。高橋さんの彼女ですか?」
「……」
きっと、今のひと言で高橋さんは分かっているはず。でも黙っているということは、話したくないのかもしれない。
「あっ、あの、聞いたらまずかったですよね。すみません。聞かなかったことにして下さい」
「……」
それでも黙って何も言ってくれない高橋さんに間が持たなくて、飲みかけだったアールグレイ・ベルガモットを一気に飲み干した。
すると、高橋さんが黙って空いたマグカップを両手で持っていた私から取ると、テーブルの上に置いてあったダスターと一緒にキッチンへと持って行き、カウンターにのせてまたソファーに戻ってきた。
「すみません。ご馳走様でした」
「少しは、落ち着いたか?」
「はい……」
本当は落ち着いたとは決して言えない状態だったけれど、無理矢理浮遊状態にある思いをねじ込んで落ち着けようとしている。
「そう。良かったな。じゃあ、シャワー浴びてくる」
「はい。行ってらっしゃい」
迷いなどないといった体で、立ち上がってバスルームの方へと歩き出した高橋さんの背中に向かって返事をした。そしてバスルームのドアノブに手を掛けようとした高橋さんの後ろ姿を見て、何て馬鹿なことを聞いてしまったんだろうと、後悔の思いでいっぱいになって視線を自分の膝に戻した。
「彼女は、何でもない」
エッ……。
その声に、慌てて高橋さんの方を見ると、高橋さんがバスルームのドアノブに手を掛けたまま、こちらを振り返っていた。
「彼女は、大学の後輩だ」
「あの、でも……」
高橋さんは、そのままバスルームに入ろうとドアを開けかけたが、私が話し掛けたので、少し上半身を仰け反らせるようにして顔をこちらに向けた。

