新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

「行こう」
「えっ?」
高橋さんが急に防風堤から飛び降りると、私の両脇を抱えて降ろしてくれたので、慌てて涙を拭った。
そして、私を助手席に乗せてくれてドアを閉め、車のエンジンを掛けてブランケットをトランクにしまうと車を発進させた。
「あ、あの……」
何処に行くのかというよりも、話が途中になっていたことがとても気になっていた。
「ん?」
高橋さんは、運転に集中していて返事だけしてくれたので、私もそれ以上は何も言うのはやめようと思った。
「い、いえ、何でもないです」
いつもの帰り道とは違う道を下っていたが、程なく道幅が広くなって大きな駐車場が前方に見えてくると、高橋さんはその駐車場に車を停めた。
「着いた。降りよう」
「は、はい」
コートは着たままだったので、助手席のドアを開けてくれた高橋さんと一緒に車から降りて歩き出すと、先ほどよりは標高が低い分、さほど寒くは感じられない。
「寒くないか?」
「はい」
高橋さんと少し歩いて行くと、いきなり前方が開けて辺りが明るくなった。
これは・・・・・・。
目の前に広がっている水面は、湖だろうか?
その湖の中州に、大きなクリスマスツリーが発光ダイオードの明るさで煌びやかなイルミネーションを演出していた。
「綺麗」
周りには、知っている人だけ見に来ているといった感じで、クリスマスが近いというのに殆ど人もまばらだった。
「後ろを見てごらん」
エッ……。
「あっ……」
前方は、光の明るさで星は霞んで見えるが、後ろを向くと、遠くに黒く見えるのは山だろうか? その奥に、澄んだ夜空に明るく瞬く星が辺りに散りばめられているようで無数の星がハッキリと見えていた。
「人工的明るさと自然の星明かり。二度楽しめる」
「本当に、そうですね。綺麗」
目の前の湖を囲った柵に沿って、等間隔に並んだ小さめのクリスマスツリーやトナカイやそりのイルミネーションの光が、高橋さんと私の顔を明るく照らし出している。
「空港で、お前が入社した頃、よく口にしていた言葉を聞いて気づいたんだ」
高橋さん?
「駄目なんです、私。そう、お前が泣きながら空港で口にした言葉は、昔よく言ってたよな?」
言っていたかもしれない。
「誰にでも訪れる平等な未来は、自分自身でいかようにも変えられるが、その反対に、過去に自分を戻すようなことをしても、何も変わらない。何も、変えられないんだ。それを、お前は俺に気づかせてくれた」
「私が……ですか?」
「そうだ。過去の柵に囚われているだけでは、何も変わらない。進歩もなければ、変化もない。そのことに気づいたら、お前のことがずっと気になって仕方がなかった」