新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

高橋さんは、今でもミサさんのことが……。やっぱり、そうなんだ。
「だが、それ以上に、お前の泣き顔が頭から離れなかった」
高橋さんが……何故?
「俺はミサと出逢って、もうこれ以上の出逢いはないだろうっていうぐらいの思いでいたが、それは見せ掛けだけだったのかもしれない」
「見せ掛け?」
高橋さんがミサさんと出逢ったことが、見せ掛け?
「これ以上の出逢いも、これだけ愛情を注げる相手も、もう現れることはないと信じていたが、それは俺の独りよがりに過ぎなかった。恋愛は、双方の愛情が均等に保たれていなければ長くは続かず、途中で地面に着いてしまったり、宙に浮いてしまったりする。まるで、均衡のとれていない天秤のようなものだ。均衡のとれていない天秤に、もう一度均等に重さを配分するには、かなりの労力が必要になって、よほど慎重にやらないとまた同じことの繰り返しになる。その重さが愛情だとすると、双方合わせることは、かなり不可能に近い」
そんな……。
「俺は、ミサと過ごした時間は今まで最高の日々だと思っていた。それは今も変わらない」
高橋さんの言葉に、胸がチクチク痛んで仕方がない。
「だが、見方を変えれば、俺はずっと幸せの隣に居た気がする」
幸せの隣?
「いつも何かに怯えて、その何かが分かっているようで分からない。現実から、目を背けていたから。ステイタスとして自分の恋愛に酔って、ミサと一緒に居られることが幸せと言い聞かせていたんだろうな。だが、それは心の底から幸せだとは感じていなかった。それは、幸せの隣に居たからなんだ」
何でだろう? とても苦しくて、呼吸が苦しく感じられる。
「決して、ミサを否定しているわけではない。今も、ミサのことを忘れたわけでもない」
苦しい……。
やめて……高橋さん。もう、何も言わないで。
面と向かってハッキリ言われて、虚しさしか感じられない。
「だが、それ以上に、お前が俺の心を占領してた」
エッ……。
涙で見えづらくなった視界に、ぼんやりと高橋さんの顔が遠くに見えた。
「お前の涙を見ていたら、取り戻したい人生の忘れ物を思い出した気がする」
高橋さん……。
取り戻したい人生の忘れ物って、何?