新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

すると、まゆみはピースサインを出して、私に笑って見せた。
つられて、私も笑顔を作って見せたが、上手く笑えていなかったかもしれない。

高橋さんが出張に行ってしまって、心にポッカリ穴が開いてしまったようだったが、現実はそれどころではなかった。
中原さんと月末処理に追われ、高橋さんが居ない分、中原さんの負担は相当なものなのが分かっていたので、私も必死に最大限出来ることをやっている。
「大変そうだけど、大丈夫?」
声を掛けられて顔を上げると、折原さんが私の肩を叩いた。
「はい。ありがとうございます」
「あまり、無理しちゃ駄目よ? 今、矢島ちゃんに倒れられたら、きっと中原が泣くからさ」
そう言って折原さんは中原さんの方をチラッと見ると、中原さんも顔を上げていた。
「折原さん。縁起でもないこと、言わないで下さい」
「あら? でも、本当のことでしょ?」
「そうですよ。今、矢島さんに休まれたら、俺、本当に泣きますよ」
中原さん……。
「ほらね? 矢島ちゃんは、必要とされてるんだから。だから、95%の力で毎日頑張って。残りの5%は、いざという時のためにプールしといて。毎日100%の力を出し切ってると、長くは続かないから。何事も、ほどほどって言うでしょう?」
「はい。ありがとうございます」
ちょうど電話が鳴っていたので受話器を取ると、折原さんはもう一度私の肩を叩いて行ってしまった。
「もしもし。会計監査矢島です」
「高橋です」
高橋さん!
「あ、あの、お疲れ様です」
「元気か?」
「は、はい。高橋さんも、お変わりないですか?」