新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

「あの……出張は、お一人で行かれるんですか?」
嫌だ。
何で、こんなこと聞いてるんだろう。
「ん? 矢島さん。一緒に行きたい?」
高橋さんが、微笑みながら言った。
「と、とんでもないです。む、無理です。絶対に」
顔の前で思いっきり両手を振って見せると、高橋さんも中原さんも笑っていた。
「矢島さん。そのうち、高橋さんのお伴になるかもよ?」
「えっ? そ、そんなの駄目です。無理ですから、私は」
「そんなにムキになっても、仕事は好き、嫌いで選べないからねえ」
「中原さん。からかわないで下さい」
そんな中原さんとの会話を、高橋さんは笑って聞いていた。
11月20日から12月22日までの予定で、高橋さんが出張に行ってしまう。考えただけで、すでに寂しくなっている自分が居る。1ヶ月以上も、高橋さんに会えないなんて……。
「出張?」
「そうなの。1ヶ月以上も居ないの」
「そうなんだ。何時から?」
「20日から」
「何? もう、来週じゃない」
「うん……」
そうなんだ。
病み上がりの高橋さんは、その後、フル回転で仕事を毎日こなしていて、熱があんなに高かったなんて微塵にも感じさせない。
IDカードを届けに行った、あの日。高橋さんは、扁桃腺が腫れて熱を出して寝ていた。
明良さんに言われるまま、熱が下がるようにとアイスバッグを高橋さんの脇の下に置いたりして、明良さんが来てくれるまで必死だった。今、思い出しても、恥ずかしさで一杯になってしまうこともあって、あんなことが出来てしまった自分は、頭がおかしくなってたんじゃないかと疑いたくなる。
でも……。
高橋さんの机の引き出しから、見つけてしまった手紙。封が切られていなかったのは、何故なのか。勿論、私に関係ないことなんだけれど、何だか気になって仕方がない。
「まゆみ。まゆみだったら、好きな人から手紙を貰ったら直ぐに読む?」
「勿論。だって、貰ったからには読まなきゃ。読まなきゃ、何も分からないじゃない?」
「やっぱり、そうだよねぇ……」
普通、貰った手紙は直ぐ読みたいもの。それなのに高橋さんは、ミサさんの手紙を未だに読んでいない。別れてから、何年経っているんだろう? いったい、何の意図があって読まないの?
「何か、あったの?」