新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

自分で、こんなにも屈折した考えになっていることが更に哀しく嫌気がさす。高橋さんが言っていることと、関係ないことなのに。勝手に私が想っているだけで、高橋さんが悪いわけでも、何をされたわけでもないんだから。
「本当に、何でもないんで」
高橋さんの胸をそっと押して体を離し、途中になっていた氷をアイスバッグに詰め終えた。
「さあ、高橋さん。ベッドに行きましょう。寝てないと、熱下がらないですよ?」
努めて明るく振る舞いながら、病院の看護師さんのことを思い浮かべた。患者に接する時のあの看護師さん達の明るさに、本当に助けられる時がある。同じように、今の高橋さんに辛気臭い接し方はタブーだ。
「ちょっ……分かった。今、行くから。アイスバッグ、全部持てるのか?」
「はい」
「落とすなよ?」
「はい」
無理矢理高橋さんの背中を押すと、腰が痛いからなのか、直ぐにキッチンから出ようとしてくれたので、アイスバッグを抱えて後ろから続く。
キッチンから寝室までのほんの僅かな距離なのに、均整のとれた高橋さんの後ろ姿を見ながら小さく溜息を突いた。
具合の悪い人に、心配掛けてはいけないのに……。
寝室に入ると、高橋さんは熱があるからやはり疲れたのか、直ぐにベッドに横になった。
「あの……」
アイスバッグを置こうとして、高橋さんに声を掛ける。
「2つ貸せ」
高橋さんが左手を伸ばして、アイスバッグを受け取ろうとしている。
「いいから」
「でも……」
「早く」
高橋さんに言われるまま、アイスバッグを2つ差し出した。
「また、いきなり布団捲られて、下から襲われても困るだろ?」
はい?
何のことか、最初分からず首を傾げていると、高橋さんが冷ややかな視線でこちらを見ていた。
「あれは、誰がどう考えても、襲われてるとしか見えないぞ」
うっ。
そうだ!
今、思い出した。
いきなり高橋さんの足の方の布団を捲って、頭から……。
考えただけで顔から火が出そうで、思わず両手で顔を覆った拍子に持っていたアイスバッグを全部床に落としてしまった。
「す、すみません」
慌てて拾うと、笑いながら2つのアイスバッグを高橋さんは布団の中に入れた。
「座って」
な、何?
高橋さんがベッドの縁を左手でポンポンと叩いて、私に座るよう促したので、黙って静かにベッドの縁に座ると、高橋さんが黙って私の手からアイスバッグを取って右脇の下置くと、もう1つを私に置くよう左腕を横に上げた。
「は、はい」
急いで、高橋さんの左脇の下にアイスバッグを置くと、最後の1個を自分の額の上に置いて、高橋さんは少し微笑みながら私を見た。
「ありがとう」
高橋さん……。