新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

は、恥ずかしい。
でも此処で怯んでは、もう絶対出来ないかもしれない。そう言い聞かせて、抱えていたアイスバッグをベッドの上に置いた。
「と、とにかく、高橋さんは寝て下さい」
「……」
あまりの剣幕だったか、高橋さんは黙って私に従ってくれたのでホッとした。
ああ。恥ずかしい。これから自分がやろうとしていることを想像すると、逃げ出したい気分だった。でも、頑張らないと。
こうなったら、こういうことは勢いで……。
エイ!
高橋さんの左腕を掴んで持ち上げると、脇の下にアイスバッグを置いた。
「何だ?」
私の思いとは裏腹に、高橋さんは先ほどから何事が起きているんだと言わんばかりの表情で私を見ている。
「こ、こっちも、失礼します」
高橋さんの問い掛けを無視して、右腕を持ち上げて脇の下にアイスバッグを押し込み、もう1つを額の上に置いた。
あと2つ……。
きっと、口に出したら卒倒しそうな言葉。絶対、言えない。2つのアイスバッグの上の部分を持つ両手に、力が入っていて動かせない。
「どうするつもりだ?」
あっ……。
高橋さんの声で、我に返った。
「あ、あの、寒いですよね。すみません」
アイスバッグを片手で持って、高橋さんに布団を掛けた。
やっぱり、私には無理だ。高橋さんの……。ああ、無理。
想像しただけで恥ずかしくなって、アイスバッグを持ったまま額に手を当てた。
「お前が、デコ冷やしてどうする?」
「あっ。す、すみません。そうですよね」
『恥ずかしいと思う気持ちは自身のことであって、その気持ちで人の具合は良くならないんだから力を貸すことにはならないよ』
そうなんだ。明良さんの言う通りなのに。それなのに……。
「寝ていいか?」
エッ……。
高橋さん。きっと辛いんだ。
『俺が行くまで、なるべく貴博の熱がこれ以上上がらないように体冷やしてくれる?』
高橋さんの熱がこれ以上上がらないようにしないといけないのに、私は何をやっているんだろう。恥ずかしいとか、言ってる場合じゃない。早く高橋さんに元気になって貰うためにも、私は……。
「高橋さん。失礼します」
心を決めて、高橋さんの布団の足の方を勢いよく捲った……つもりだったが、どこかに躊躇いがまだあったのか。少しだけしか布団は捲れていなかった。
でも……。