新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

電話を切って、明良さんの電話を切る間際の言葉を思い出した。
厄介な患者って?
少し引っ掛かったが、考えている暇はなかった。
急いで、高橋さんの体を冷やさなくちゃ。
明良さんに教えて貰った通り、洗面所のシンクの下の扉を開けるとアイスバッグの箱が綺麗に並んでいたので、それを抱えてキッチンへと急いだ。
元から冷凍庫に入っていた氷を先に出してアイスバッグに詰めていったが、やはり足りなくなってしまい、さっき買ってきた氷も出してアイスバッグに全部詰め終わった。
明良さんに言われたことを心の中で復唱していたら、緊張してきてしまった。だが、今そんなことを言っている場合じゃないってことも、明良さんから教えて貰った。
アイスバッグを抱えて高橋さんの寝室のドアをノックして入ると、高橋さんがベッドに寝ながら目を開けてこちらを見ていた。
不意に、先ほどの真っ白な封筒の文字が思い出された。あの封筒の文字が、脳裏に焼き付いてしまったらしい。高橋さんは、封を切っていなかった。何故?
『脇も股間も左右両方と、あと額にも出来たらお願い出来るかな』 『恥ずかしいと思う気持ちは自身のことであって、その気持ちで人の具合は良くならないんだから力を貸すことにはならないよ』
そうだった。
今は、余計な考えや羞恥心は必要ないんだ。
高橋さんの体を冷やすことが、今の私がするべきことなのだから。
「あ、あの……。体を冷やして欲しいと明良さんに言われたので、すみません。し、失礼します」
高橋さんは、何事? と言った表情で私を見ていたが、此処で躊躇してしまうと何も出来なくなってしまいそうだったので、意を決して高橋さんの掛け布団を剥いだ。
「何?」
高橋さんが、驚いて飛び起きた。
「あ、あの、あのですね。ちょっと体の一部に、お、置かせて頂きますので、ご、ご了承下さい!」