新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

「お邪魔します」
リビングに入ると、高橋さんがソファーに座って紙に走り書きをして私に見せた。
− 声を出すと喉が痛い。悪いが、コンビニに行ってヨーグルトを買ってきてくれるか?−
− 分かりました。行ってきますね。他に食べたいものや、何か欲しいものはないですか? −
− お前まで筆談してどうする? お前は、普通に話せるだろう −
「あっ。そ、そうでした。すみません」
すると、高橋さんが声を出さないように笑いを堪えていた。
「そ、それじゃあ、行ってきます。高橋さん。寝てて下さいね」
高橋さんは、黙って頷くと、
− 気をつけて行けよ −
と、紙に書いて私に見せると、テーブルの上に置いてあった玄関の鍵を渡してくれた。
「はい。行ってきます」
バッグを持ったままだったので、そのまままた玄関に向かって外に出る直前、ふとリビングの方を振り返ると、高橋さんの姿はソファーにはもうなかった。
きっと、高橋さん。相当辛いんだ。
ドアを閉めて急いでエレベーターホールに向かい、直ぐに来たエレベーターに乗って1階のエントランスを出ると、外はとても良いお天気で雲ひとつない青空が広がっていた。
駅から来る途中、マンションを出て直ぐのところにコンビニがあったことを思い出し、足早にコンビニに入ると、真っ先に冷蔵オープンの前に立って、ヨーグルトの吟味を始めた。ヨーグルトを3個カゴに入れて、あることに気づいた。ヨーグルトが食べたいと言った高橋さんのことを思い出し、もしかして喉が痛いから喉の通りが良い冷たいものが食べたいんじゃないかと思い、ヨーグルトの他にプリンやババロア等、ツルッと喉の通りが楽なものやアイスクリームも買って急いでマンションに戻った。
「ただいま戻りました」
リビングにコンビニの袋を持って入っていくと、高橋さんの姿はやはりなくて、見ると寝室のドアが少し開いていた。
寝てるのかな?
そう思って、コンビニの袋をテーブルの上に置くと、そっと寝室のドアを静かにもう少し開けて覗いてみると、高橋さんがベッドで眠っていた。
高橋さん……。
寝ているのだったら起こさない方がいいと思い、コンビニで買ってきたものを静かにキッチンに向かって冷蔵庫に入れた。
でも……高橋さん。明良さんに、診て貰った方がいいんじゃ……。