新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

「ご馳走様でした。お邪魔しました」
「それじゃ、気をつけて」
「はい。おやすみなさい」
高橋さんが、ドアを閉めた。
とうとう、最後まで高橋さんと目を合わさず仕舞いだった。
誤解も解けなかったし、何も昨日から進展していない。
エレベーターの前までゆっくり歩いて行き、ボタンを押して待っている間、明良さんが持ってきてしまったバッグを見て、大きく溜息をついていた。
エレベーターのドアが開くと、中に男の人が1人乗っていて、私の姿を見て開のボタンを押してくれているので、お礼を言って1歩エレベーターの中に足を踏み入れた時だった。
誰かがこちらに向かって走って来る足音が聞こえ、エレベーターに乗っていた男の人は、住民の誰かが乗るのかと思って開のボタンを押したまま待ってくれていた。
「待てよ!」
エッ・・・・・・。
その声に振り返ると、エレベーターに乗っていた私の腕を、高橋さんが掴んでいた。
「えっ? あっ、あの……」
左足に力が入らないので、あっという間にエレベーターから降ろされてしまった。
「すみません。乗らないので行って下さい」
「はい」
エレベーターに乗っていた男の人は、ドアを閉めて行ってしまった。
「ど、どうしたんですか?」
「お前、やっぱり今夜、俺の家に泊まれ」
「えっ?」
あっ……。
持っていた着替えの入ったバッグを、高橋さんが奪い取った。
「キャッ……」
そして、そのまま抱っこされて高橋さんの部屋まで連れて行かれてしまった。
さっき、この部屋を出たばかりなのにまた戻ってきてしまい、高橋さんが私をそっとソファーに降ろすと、おもむろに携帯を出して画面を開いて何かをしている。
誰かから、メールがあったのだろうか?
キー操作が止まったと思ったら、高橋さんが携帯の画面を私の前に差し出した。