新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

「いや、アロマオイルとしては使ってない。最初は、ニューヨークに居る頃、何かのお返しで貰ったんだ。割と柑橘系ですっきりしてる香りだったから、クローゼットの中に瓶の蓋を開けて置いてみたら意外と良かったから、それからずっとそうしてる。だから、香水とまではいかないかな」
「そうだったんですか。いいですね、この香り。私も好きです。何て言う香りなんですか?」
ずっと、聞きたかった。聞こうと思っていて、何故か聞きそびれていた。高橋さん。今日は、教えてくれるかな? 
「秘密」
ハッ!
「ひ、秘密って、高橋さん」
「そのうち、もし機会があったらな」
機会があったらって……。
「はあ……」
高橋さん?
高橋さんが、また大きな溜息をついた。
さっきもそうだったけれど、何かあったんだろうか?
高橋さんが、大きな溜息をつくなんて珍しい。しかも、二回も。
「居た」
高橋さんがそう言って車を路肩に停めると、その直ぐ前に同じ車種の車が停まっていた。
「ちょっと、待ってて」
「はい」
高橋さんが後方を確認してドアを開けると、明良さんも車から降りてきて何か話をしていた。見ていると、殆ど明良さんが何か言っていることに対して、高橋さんが腕を組んで下を向きながら仕切りに頷いている。
そして、話が終わったのか、高橋さんが車に戻ってくると、トランクを開けて私の荷物を明良さんのトランクに積み替えようとしていたので、高橋さんのジャケットを助手席に置いて慌てて車から降りた。
「陽子ちゃん。こんばんは」
「こんばんは。あの、すみません。お忙しいのに……」
「忙しくないよ。もう、仕事終わったしね」
明良さん……。
「それじゃ、明良。頼むな」
「了解。それじゃ、陽子ちゃん。行こうか」
「は、はい。あの、高橋さん」
何だか、此処で高橋さんと別れるのが寂しかった。
「お疲れ様」
「お疲れ様でした。いろいろ、ありがとうございました」
高橋さんは、黙って左手を挙げるとそのまま車に戻っていった。
何か、高橋さん。疲れてるのかな?
それも、そうだ。私のせいで、振り回してしまったから。
「陽子ちゃん。乗って」
「は、はい。すみません」
明良さんの車の助手席に乗ると、明良さんは直ぐに車を発進させた。
ふと、気になって後ろを振り返ると、高橋さんの車も後ろから付いてきていたが、次の信号で直ぐに曲がってしまい、曲がる直前に明良さんの車に向かって高橋さんはパッシングをしたので、明良さんが運転席の窓から手を出して合図をしていた。