新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

「フッ……。素直に、言うことを聞け。大丈夫か?」
「は、はい。す、すみません」
慌てて拾ってバッグに詰め込んでいると、運転席の方にまで飛んでしまっていた手帳を、高橋さんが拾ってくれて渡してくれた。
「さて、行くか」
高橋さんが車を発進させて駐車場の料金所に向かうと、料金所手前から少し混んでいた。
「この時間は、やっぱり集中するな」
高橋さんは独り言のように言いながら、シートベルトを外してジャケットを脱ぐと、前の車が動いたのでジャケットを私の膝の上に置いて素早くシートベルトを締めて車を前進させた。
高橋さんのジャケット……。
仄かに高橋さんの香りがしていて、何か凄く安心出来る。
やっぱり、私のジャケットより大きい。私のコートと同じぐらいな感じだ。
皺にならないように、綺麗に二つ折りにして左腕を真ん中に挟んで膝の上に置いていたが、内心、ギュッと高橋さんのジャケットを抱きしめたい気分だった。
「ああ。後ろに置いていいぞ」
「あっ、はい。でも……持ってます。いいですか?」
「フッ……。構わないが、寒いのか?」
高橋さんが、左手でエアコンの温度設定を少し上げた。
「い、いえ、大丈夫です」
寒いんじゃないの。
高橋さんのジャケットを、ずっと持っていたいだけ。
「あの、この香りって……」
「ん?」
信号待ちで、高橋さんがこちらを向いた。
「高橋さんが付けていらっしゃる香水って、どこのですか?」
「香水は好きじゃないから付けてないが、多分、アロマオイルの香りかもしれない」
「アロマオイル?」
高橋さん。アロマオイルに興味があるのかな?
「アロマオイルを使われてるんですか?」