新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

「高橋……さん」
「ごめんなさい。私……私、高橋さんに嘘を……」
「……」
高橋さんは、黙ったまま私の後頭部に左手を添えると、優しく自分の胸の方に私の頭を押しつけた。
「ごめんなさい。本当に……ごめんなさい」
ここ数日、高橋さんにとってきた自分の態度を思い出しながら、軽率で子供じみた行動が悔やまれた。
きっと、こうなることは分かっていた。何時か、ばれてしまう日が来るんじゃないかと、ずっと思っていた。気持ちとは裏腹な態度を取り、それでも何処かで高橋さんに気づいて欲しかった。何という、自己中心的な考え方……。挙げ句、正直に話した私は心の重りを減らすことが出来たけれど、真実を知って高橋さんは……。私が話してしまったために、傷つけてしまった。
ハッ!
「す、すみません」
高橋さんの胸で思いっきり泣いてしまっていたが、ふと我に返って慌てて居心地の良かった高橋さんの胸の中から離れた。
「あ、あの……。ごめんなさい。私、高橋さんのワイシャツを汚してしまったかもしれないです。申し訳ありません」
駐車場が暗くてあまりよく分からないが、泣いてしまって涙をワイシャツに付けたり、もしかしたらファンデーションとかも付いてしまっているかもしれない。
「構わない」
エッ……。
「別に、構わない」
顔を上げると、高橋さんが哀しそうな瞳で私を見ていた。
「ワイシャツの汚れは洗えば直ぐに落ちるが、お前が負った心の傷はそう簡単には消えないだろう?」
高橋さん……。
「いくら酒に酔っていたとはいえ、本当に悪かった」
「そんな……」
高橋さんの哀しそうな瞳を見ていたら、また涙が零れた。けれど、涙でその哀しい瞳が霞んで見える方が今は良かった。
高橋さんのことを、今まで少しだけでも分かっているつもりだった。
けれど、それは私の思い違いに過ぎず、今、目の前に居る高橋さんが本来の姿なんだ。
常に高橋さんが凛とした姿で居られるのは、それは強さだけなんじゃない。高橋さんが強いのは、自分の弱さをいちばんよく知っているからこその強さ。強さは弱さの裏返しで、本当の高橋さんは繊細で実直。曲がったことが許せない自分に厳しい人。そんな高橋さんは、今どんな気持ちでいるんだろう。私が話してしまったことで、私の大人気ない行動のせいで……。
このままだと、高橋さんはきっと後悔だけが残ってしまうかもしれない。それが私とイコールになって、私の顔を見る度に思い出してしまうなんてことになったら哀し過ぎる。