新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

「ああ。ありがとう」
「大丈夫ですか?」
「何がだ?」
高橋さんが、無表情のまま私を見た。
「何だか、疲れていらっしゃるみたいなので……」
「大丈夫だ」
「お酒は、飲まれなかったんですか?」
「ああ」
そう言うと、高橋さんが大きな溜息をついた。
高橋さんが、溜息をつくなんて珍しいな。
「それじゃ、また明日。7時に、3階のビュッフェで」
「は、はい」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
そう言ってドアを閉めようとしたら、高橋さんがドアの角を持ってそれを止めていた。
高橋さん?
ドアの角を左手で押さえた高橋さんが、黙ったままジッと私を見ている。
な、何?
「あ、あの……」
「いや、何でもない。遅くまで、待たせて悪かった。おやすみ」
「お、おやすみない」
ドアを閉めてドアガードをした後、そのままドアガードを持ったまま考えていた。
高橋さん。何か、私に言いたかったのかな? そんな風に思えたけど、考えすぎかな。
気を取り直してシャワーを浴びてベッドに入ると、もう1時を過ぎていて慌てて携帯の目覚ましをセットして寝たが、何度も目が覚めてしまい、あまり眠れないまま朝を迎えていた。
支度をして3階のビュッフェに向かうと、すでに高橋さんは来ていてコーヒーを飲みながら待っていてくれた。
「おはようございます」
「おはよう」
「すみません。お待たせしてしまって。先に食べていて下さって、良かったのに」
「1人で食べても、美味くないだろう?」
高橋さん。
そう言って高橋さんは微笑んでくれると、席を立った。
「バイキングらしいから」
「あっ、はい」
トレーをボーイさんから受け取って、好きなものをお皿に載せていく。見ると、高橋さんのお皿の上は目一杯載っているが、殆どサラダで埋め尽くされている。そういう自分のお皿を見ても、同じような感じだった。
高橋さんも、サラダ好きなんだ。何か、嬉しいな。
ただ、それだけのことなのに、何故か嬉しかった。
「何? お前、タンパク質系が殆どないじゃん」
「えっ? そ、そうですか?」
「フルーツばかり取ってたが、少しは卵やベーコンとかも食べないと」
プッ!
何だか、高橋さん。うちの親みたいな言い方。
「何、笑ってるんだ?」