新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

『6時半前後に、迎えに行く』 って、高橋さん。いきなり、そんなこと言われても……。
高橋さんの電話が切れてから、荷物の横に座ったまま呆然としていた。
そして、迎えに来てくれるなんて申し訳ないなと思いながらお風呂に入ってベッドに潜り込んだが、緊張のせいかなかなか寝付けないまま朝を迎えていた。
時間通りに高橋さんが6時半に迎えに来てくれたので下に降りていくと、いつもと変わらないスーツ姿の高橋さんが煙草を吸いながらトランクを開けて待っていてくれた。
「お、おはようございます。よろしくお願いします」
「おはよう。荷物、トランクに入れていいか?」
「あっ、はい」
すると、高橋さんが口に煙草をくわえて煙たそうな表情をしながら、私の荷物をトランクに入れてくれた。
「すみません。ありがとうございます」
「フッ……。何だか、1週間ぐらい出張に行くみたいだな」
うっ。
言われてしまった。
やっぱり、荷物多かったかなぁ。
「すみません……」
「別に、謝ることじゃない。さあ、乗って」
高橋さんが、助手席のドアを開けてくれて私を乗せてくれた。
「ありがとうございます」
高橋さんの車に乗るのは、久しぶりだな。
あの送別会の前に、乗ったきりだったはず。
送別会の日に乗せて貰った、明良さんの車の雰囲気とはやっぱりどことなく違う。
空港に向かいながらあまり車の中で会話はなかったが、その方が私にとっては良かった。何か聞かれても上手く応えられなかったりしたら困るし、変に身構えてしまいそうで、それを高橋さんに悟られるのが嫌だったから。
空港に着いて飛行機に乗ったと思ったら、もう大阪についてしまい、空港内の事務所に向かう予定になっていたので直ぐに事務所に向かうと、一斉に女子社員がこちらを向いていた。
「まあ、高橋さん。お久しぶりです。お元気でしたか?」
「お陰様で」
女子社員が、次々と高橋さんのところに挨拶にやってくる。そして、隣に立っている私を一瞥すると、そのまま黙って去っていってしまうパターンが殆どだった。
高橋さんは、やっぱり何処にいっても人気者なんだ。
そういう私も、高橋さんに憧れている1人なんだけれど……。
「この書類をコピーして、中原にFAXしてくれるか」
「はい」
みんなとの挨拶が終わると、高橋さんは直ぐに仕事に取り掛かっていた。その高橋さんの指示に従いながら、私も言われたことをこなしている。
ふと、コピーをしながら視線を感じて見ると、女子社員の1人と目が合ったので会釈すると、あからさまにそっぽを向かれてしまった。
もしかして、急ぎのコピーをしたかったのかな? 何か、機嫌が悪そうだ。
怒濤の1日目が終わってホテルに向かおうとしていると、大阪支社の人に高橋さんが呼び止められていた。
「高橋さん。いいお店がございますので、よろしかったら今夜、如何でしょう?」
「ありがとうございます。ですが、これから彼女と一緒に食事してからホテルに向かいますので、どうぞお気遣いなく」
エッ……。
何のこと?
「でも、せっかくですから」
もしかして、接待?
「いえ、本当に……」
「あの、高橋さん」