新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

「だって、目の前を通ったのにさ。陽子ちゃん。俺に気づかなかったから」
エッ……。
「す、すみません。ボーッとしてて……」
「まあ、いいや。先に、診察しちゃおう」
そう言うと、明良さんは真剣な表情に変わって、私の左足を診てくれた。
「だいぶ良くなったね。このまま痛くならなければ、もう通院も最終的に1ヶ月後で大丈夫」
「ありがとうございます」
「湿布薬も出さないから。薬は、今日は無しだから」
「はい。ありがとうございます」
靴下を履いていると、カルテの書き込みが終わったのか、明良さんが私の顔を覗き込んだ。
「な、何ですか?」
「で? それは、こっちの台詞なんだけどね? 何があったのお?」
「い、いえ、何もないですよ。明良さん」
何だか、恥ずかしくて話せないな。
「主治医に、隠し事はいけません。正直に、話しましょう」
明良さん……。
明良さんなら、学生時代の高橋さんも知っているはず。聞いてみようかな? でも……。
「陽子ちゃあん?」
「は、はい。あの……。高橋さんは、その……学生時代から、女性関係は……」
「女性関係?」
明良さんが、突拍子もない言葉に目を見開いて私を見た。
「あの……高橋さんの女性関係って、そんなに激しいというか……遊び人だったんですか?」
「……」
明良さんが、ジッと私を見たまま黙ってしまった。
やっぱり、何かいけないことを聞いてしまったのかもしらない。これこそ、本当のプライバシーだものね。
「だから、陽子ちゃんも遊ばれるとか?」
「えっ?」
「好きになっても、もしかしたら遊ばれて捨てられるとか。そんなこと考えてた?」
明良さん……。
「あ、あの、そ、それは……」
「陽子ちゃん。宮内の話、貴博から聞いた?」
エッ……。
「い、いえ、聞いていないです。高橋さんも、何も言って下さらなかったし……」
「やっぱり……。そうだと思った」
明良さん。
明良さんは、微笑みながら机に向かっていた椅子を回転させて私と向き合った。
「貴博は、そういう男だよ」
「あの……高橋さんは、何で何も話してくれないんですか?」
すると、明良さんが腕を組んで私を見た。
「貴博は、余計なことは言わないから。宮内のことを陽子ちゃんに話しても、もう済んだこと。つまり、終わったことだからと思ったんだろう?」
「そう……なんですか」
宮内さんのことがどうなったのか、あれからとても気になっていた。だけど、高橋さんに聞くに聞けないままだったが、今の明良さんの話からすると、きっともう聞くことは出来ないかもしれない。
「陽子ちゃん」