新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

そうだ!
折原さんから預かった書類を、高橋さんに渡さなくちゃ……。
机の引き出しから、午前中に折原さんから預かった書類の入った封筒を出そうと思って開けた。
あれ?
この下の引き出しだったかな?
入れたと思っていた引き出しには、書類の入った封筒は入っておらず、その下の引き出しを開けた。
嘘……。
何で?
もう1度、上の引き出しを開けたが封筒は見当たらず、もしかして引き出しの奥に落ちてしまったのかと思って、引き出しを外してみたが奥にも見当たらなかった。
ない!
どうしよう。
折原さんから預かった、書類の入った封筒がない。
何で?
おかしいな。確かに、机の引き出しにしまった筈なのに……。
「矢島さん。お帰りなさい」
「た、ただいま」
栗原さんの問い掛けにも、余裕がなくておざなりの言い方になってしまったが、今はそれどころじゃない。
折原さんから預かった書類。もしかしたら、大事な書類だったのかもしれない。
「矢島さん。何か、探し物ですかあ?」
栗原さんが、椅子に座ったままキャスターを滑らせてこちらに近づいてきた。
「えっ? あっ、うん。ちょっとね」
「もしかしてえ、折原さんから預かった封筒ですか?」
何故、分かったんだろう?
栗原さんが、微笑みながらこちらを見ている。
「そ、そう。そうなの。探してるんだけど、見つからなくて」
「ああ。それだったら、さっき私が高橋さんに渡しておきましたよ?」
エッ……。
嘘。
「な、何で?」
「だって私が事務所に帰ってきたら、もう高橋さんも戻ってたから、早く渡した方がいいと思って。矢島さんが戻ってくる前に、その分、早く渡せたから良かったじゃないですか」
そういう問題じゃ……。
「それじゃ、私の机の引き出しを開けたの?」
「はい」
微笑みながら栗原さんに返事をされて、思わず開いた口が塞がらなかった。
狼狽えながらも高橋さんの方を見ると、何事もなかったようにパソコンの画面に向かっている。
「栗原さん」
「はい」
大きく深呼吸してから、栗原さんと視線を合わせた。
「折原さんから預かった書類の入った封筒は、確かに高橋さんに渡してくれたのね?」
「はい。ちゃんと、手渡ししましたから」
「それなら良かったけれど、これからは申し訳ないけど、机の引き出しは勝手に開けないでね」
「はい。分かりました。でも心外だな。せっかく良いことしたのに、そんな風に言われちゃって」
栗原さん……。