新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

そして、もう1度頭を撫でてくれると踵を返して、玄関の施錠を解くとドアを開けた。
「お、おやすみなさい。高橋さん。気をつけて」
「俺が出たら、直ぐに鍵を掛けろよ」
「はい」
「フッ……。無防備過ぎることの方が、よっぽど犯罪だな」
エッ……。
高橋さんがそう言った途端、ドアが閉まってしまった。
な、何?
今、何て?
『無防備過ぎることの方が、よっぽど犯罪だな』 って、何?
ドアが閉まる直前に高橋さんが言ったことが理解出来ずに、混乱しながら慌ててドアの鍵を閉めてドアガードをした。
しかし、何だか落ち着かず、自分の部屋に居るのにウロウロしてしまっている。お風呂に入ろうかと思ったが、入っている間に何かあったりしたら怖いと思うと、気分的に入れない。
けれど、高橋さんに言われたことを思い出して、今までもこうやって暮らしてきたんだと自分に言い聞かせ、取り敢えずシャワーを浴びることにしたが、やはりいつもより早めに済ませて出て来てしまった。
はあ……。
何か、先が思いやられるな。
ちょっとした音にも敏感に反応してしまい、起きていてもかえって怖い気がして、ベッドに横になっているうちに、緊張して疲れたせいか思った以上に早く眠れたみたいだったが、気持ちがまだ高ぶっているせいで、気づくと目覚ましが鳴る1時間前には起きていた。
早めに朝食を食べて支度も終わってしまったので、このまま家に居ても落ち着かないと思い、いつもより早く家を出ることにした。
高橋さんの言葉を思い出し、玄関のドアのマジックミラーから外を確認してからドアを開けて周りを見渡してから鍵を閉める。
自分の部屋なのに、他人の部屋のように緊張しながらドアから離れて通路を歩き出したが、まだ時間があったので通路の角まで行って、昨日、男性に遭遇した場所の辺りを見た。だが、通勤、通学で駅に向かって歩いて行く人が結構見受けられ、同じ場所なのにホッとしている自分が居た。
そして、昨日よりもだいぶ気持ちが楽になって、下の道を見ながらエレベーターの方に向かって歩いていると……。
エッ……。
今のって……?
まさかね……。
最近、高橋さんの車と似てるような車が走っていると、つい見入ってしまったりドキドキしてしまったりする。こんなこと、まゆみに話したら、絶対馬鹿にされそうなんだけれど……。
今、下の道を走っていった車が高橋さんの車のように感じて、運転していたのも高橋さんだったような気がしてしまった。
私、どうかしてるな。