新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

エッ……。
この声は、まさか……。
何処かで聞いたことのある声がして、その声が何だか悪夢の再来のように思えてしまった。
「こちらになります」
店員さんに案内されて、通路を歩いている高橋さんと栗原さんの姿が見え隠れして、私達が座っている横を通った。
「高橋さん」
すかさず中原さんが呼び止め、その声に高橋さんが振り返った。
「オッ、居たのか?」
「はい。さっき来たところです。あれ? 栗原さんも一緒だったんだ」
「お疲れ様でーす。高橋さん。早く行きましょう」
栗原さん。かなり酔ってる感じだ。
「ご一緒ですか?」
「いいえ、違います」
店員さんが気を利かせて聞いてくれていたが、栗原さんが強い口調で即答していた。
「あら。どうせなら大人数の方が楽しいし、私も栗原さんとお話したいわ」
折原さん?
「あっ、店員さん。すみませんが、一緒に飲みますから席は此処でお願いできます?」
「はい。かしこまりました」
「えっ? ちょ、ちょっと、待って下さい」
「いいから、座って、座って。栗原さん」
素早く折原さんが立ち上がると、栗原さんを押し込むようにして奥の席に座らせて、自分も隣に座った。
すると、栗原さんが、わざとらしく大きな溜息を突いて見せた。
「何? 栗原さん。息苦しいの? 大丈夫?」
「大丈夫です」
栗原さんは、露骨に態度に出てしまう人なんだ。見ていて、こっちがハラハラしてしまう。
「俺、ちょっとトイレに行ってきますから。高橋さん。奥に座って下さい」
「分かった」
エッ……。
隣に座っていた中原さんがトイレに立ったので、高橋さんが隣に座ってしまい、一気に緊張感が増した。
「お飲み物は、何になさいますか?」
店員さんが、座った高橋さんと栗原さんに問い掛けている。
「私、ダイアナ。高橋さんは? 生ビール?」
「いや、俺はウーロン茶で」
「えぇっ? 何で、お酒飲まないんですかあ? 居酒屋に来て、お酒飲まないなんてえ……」
栗原さんが、ブツブツ言っている。
「では、ダイアナとウーロン茶を1つずつでよろしいでしょうか」
「はい」
「あっ。あと、生ビールの中を2つ」
「かしこまりました。ご用意致しますので、少々、お待ち下さい」
「折原さん。2杯も飲まれるんですか?」
「違うわよ。1杯は、中原の分」
「なんだあ。そういうことですか。矢島さんは?」
「えっ?」
いきなり振られて、驚いてしまった。
「せっかく高橋さんと私が来たのに、乾杯するのにグラスもう空ですよ?」
エッ……。
「あっ。ご、ごめんなさい。気がつかなくて、その……」
それどころじゃなかった。
いきなりお店に高橋さんと栗原さんが2人で現れて、いつの間にか、高橋さんは私の隣に座っているし……。
「あの、私。オーダーしてきます」
「来てからで、いいだろ?」
「あっ。でも、トイレも行きたいので……。すみません、高橋さん」
そう言うか、言わないかのうちに、高橋さんが席を立ってくれていた。