新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

お、折原さん。高いって……。
高橋さんが折原さんに話をしているけれど、下を向いて話しているせいか、社食の雑音が煩くてよく聞き取れない。
「いいわよ。そういうことなら、任せて」
折原さん。任せてって……。
高橋さんに、いったい何を頼まれたの?
「悪いな。助かる」
「フフッ……。何だか、楽しくなってきたわ」
楽しくなってきた?
折原さんは、いったい何を高橋さんから頼まれたんだろう?
「じゃ、そういうことで」
「了解」
折原さんの返事を聞くと、高橋さんがトレーを持って立ち上がった。
「もう、行くの?」
「ああ。これから会議があるから、一足先に行く」
そう言って、高橋さんは行ってしまった。
忙しいんだ、高橋さん。
「矢島ちゃん」
「は、はい」
高橋さんが歩いて行った方向を見ていた折原さんが、視線はそのままで話し掛けてきた。
そして返事をすると、折原さんが視線を私に移した。
「私の目に、狂いはなかったみたいね」
折原さんは、また視線を私の後ろの通路の方に向けている。恐らく、歩いて行った高橋さんの後ろ姿を見ているのかもしれない。
「あの……」
「矢島ちゃんや私が思っている以上に、高橋はいろんなこと考えてる。だから、矢島ちゃんは、何も心配しなくていいんだからね」
「折原さん……」
「それで、今夜なんだけれど、何か用事ある?」
今夜?
「いえ、特に何もないですが」
「そう。それなら、帰りにちょっと寄っていかない? たまには、いいでしょ? そうは言っても、金曜日に夏目さんと一緒に会食したばかりだわね。無理にとは言わないけど、良かったら」
そうだった。
あの格好いい夏目さんに先週の金曜日にお会いして、同じ女性として凄く刺激を受けた。
「はい。誘って下さって、ありがとうございます。お伴させて下さい」
「OK! あっ。どうせなら、中原も誘っちゃおうか」
「あっ、はい」
何だか、嬉しかった。
朝から嫌なことばかり続いていたので、まさか折原さんからお誘いを受けるとは、思っても見なかった。
「それじゃ、終わったら」
「はい。よろしくお願いします。私、そろそろ行きます。折原さん。ごゆっくり」
「ありがとう」