新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

「……」
栗原さんは、中原さんの忠告に返事をしなかった。
「だから、矢島さん。2便で頼むな」
エッ……。
「は、はい」
「それじゃ、栗原さん。行こうか」
「はーい」
今度は、中原さんの問い掛けに栗原さんは返事をしていたので、ホッとした。
「ランチに、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「これも、貴女の差し金? フン! 見てなさい」
「えっ?」
後ろを通る際、栗原さんにそんなことを耳打ちされた。
差し金って……。
中原さんと栗原さんがランチに行った後、高橋さんが書類を持って私の席の横に立った。
「これ、明日までに集計しといてくれるかな」
「はい。承知しました」
高橋さんから受け取った書類の一番上に少し大きめの付箋が付いていて、注意事項が書いてあるのかと思って、まだ他の書類の集計の途中だったが、忘れないうちにそれを先に目を通した。
— ビラのことは、心配しなくていい。—
高橋さん。
慌てて、席に戻った高橋さんを見たが、何事もなかったように書類に目を通していた。
高橋さんは、知っていたんだ。
高橋さんにそう言われると、相変わらず周囲の視線は気になったが、少しだけ気持ちが落ち着いた気がする。
そして、中原さんと栗原さんがランチから帰ってきた後、高橋さんと一緒に社食に向かって食事をしていると、折原さんが後から来た。
「一緒にいい?」
すると、高橋さんが黙って自分の隣の席の椅子を引いて、折原さんに此処に座るように首を椅子側に傾けて合図をした。
「Thank you!」
折原さんは高橋さんの隣に座ると、私を見てにこやかに微笑んでくれた。
「おっ。朝よりは、少し明るい表情になったわね」
「そ、そうですか?」
「うん。朝は、この世の終わりですって感じの表情だったもん」
この世の終わりって……。
「高橋。誰だか、分かったの?」
すると、高橋さんは両掌を上に向けて見せた。
「そう……。でも、時間の問題でしょ?」
多分、朝のビラを配った人が誰なのかという話なんだと思う。
まだ、誰だか分からないんだ。
「折原。1つ、頼まれてくれるか?」
「何? 場合によっちゃ、高いわよ?」