「どうした? 足痛むのか?」
高橋さんが隣に座ると、止まらない涙の筋をそっと拭ってくれた。
何も応えられず、黙ったまま、ただ小刻みに首を横に振ることしか出来ないでいる。
「お前……。俺の家に来るのが、そんなに嫌だったのか?」
エッ……。
「無理矢理、連れてきて悪かった。今から送って行くから」
違うの、高橋さん。
そうじゃないの。
たとえようのない苦しさが込み上げてみて、余計に涙腺を緩ませた。
「行こう」
鍵と鍵がぶつかる金属音がして、高橋さんが車の鍵を手に取ったのがわかった。
違う……違うの。
「ち、違います。そうじゃないんです」
先に私のバッグを持って玄関の方へ行きかけた高橋さんを、やっとの思いで声を振り絞って呼び止めた。
「じゃあ、何だ?」
「それは……。あの……」
言い淀んでしまったせいか、振り向いた高橋さんの鋭い漆黒の瞳が私を捉えているのがわかった。
「行こう」
高橋さんは、私を抱っこして玄関に先に置いてあったバッグを持つと、もう一度駐車場から車を出して、さっき通ってきた道をまた車を走らせて私の家へと向かった。
「それじゃ、お大事に。ああ、此処でいいから。後で、ちゃんと戸締まりしろよ?」
ソファーに座らせてもらった私が立ち上がろうとすると、高橋さんはそれを制しながら靴を履いた。
まさに高橋さんが帰ろうとしているというのに、もう目を合わせることが出来ず、ただ黙って俯いた。
「俺は……」
不意に高橋さんが何かを言い掛けたので顔を上げると、高橋さんはドアの方を向いていて私に背中を向けたままだった。
高橋さん?
「お前の気持ちも考えずに、悪かった」
エッ……。
「あの……」
「おやすみ」
高橋さんはそのままドアを開け、振り返ることなく部屋から出て行ってしまった。
『此処でいいから』
高橋さんのさっきの言葉は、まるでこれ以上、俺に近づくなと言わんばかりに制止をしてるみたいだった。
そうじゃないのに……。
そんなんじゃないのに……。
それなのに泣いてばかりいて、ちゃんと説明出来ずに高橋さんに嫌われてしまった。
暫くして、高橋さんに言われた事を思い出し、玄関まで足を引きずりながら辿り着いて鍵を締めた。
ドアの鍵の締まった音が深夜の静寂と相俟って、ひとりになってしまった部屋の中に響き渡った。
誤解は多分、解けないかもしれない。
高橋さんは、私に背を向けていた時、どんな瞳をして、どんな表情をしていたの?
ずっとソファーに座ったまま、あまり表に出ない高橋さんの表情を思い出しているうちに
優しい笑顔や悪戯っぽく笑う高橋さんの笑顔が浮かんできて、知らぬ間に泣きながら眠っていた。
良くないことは不思議と重なるもので、翌朝、目が覚めると、ソファーで変な体勢のまま寝てしまったせいか、或いは、もしかすると昨日転んだ時に打ったからか、身体中が痛くて変な筋肉痛になっていた。
それに輪を掛け、座ったまま横になっていたので、床に両足を着けていたから足が浮腫んでしまい、捻挫した左足首の湿布を取り換えた時に見ると、昨日、怪我をした時よりも更に腫れていた。
高橋さんが隣に座ると、止まらない涙の筋をそっと拭ってくれた。
何も応えられず、黙ったまま、ただ小刻みに首を横に振ることしか出来ないでいる。
「お前……。俺の家に来るのが、そんなに嫌だったのか?」
エッ……。
「無理矢理、連れてきて悪かった。今から送って行くから」
違うの、高橋さん。
そうじゃないの。
たとえようのない苦しさが込み上げてみて、余計に涙腺を緩ませた。
「行こう」
鍵と鍵がぶつかる金属音がして、高橋さんが車の鍵を手に取ったのがわかった。
違う……違うの。
「ち、違います。そうじゃないんです」
先に私のバッグを持って玄関の方へ行きかけた高橋さんを、やっとの思いで声を振り絞って呼び止めた。
「じゃあ、何だ?」
「それは……。あの……」
言い淀んでしまったせいか、振り向いた高橋さんの鋭い漆黒の瞳が私を捉えているのがわかった。
「行こう」
高橋さんは、私を抱っこして玄関に先に置いてあったバッグを持つと、もう一度駐車場から車を出して、さっき通ってきた道をまた車を走らせて私の家へと向かった。
「それじゃ、お大事に。ああ、此処でいいから。後で、ちゃんと戸締まりしろよ?」
ソファーに座らせてもらった私が立ち上がろうとすると、高橋さんはそれを制しながら靴を履いた。
まさに高橋さんが帰ろうとしているというのに、もう目を合わせることが出来ず、ただ黙って俯いた。
「俺は……」
不意に高橋さんが何かを言い掛けたので顔を上げると、高橋さんはドアの方を向いていて私に背中を向けたままだった。
高橋さん?
「お前の気持ちも考えずに、悪かった」
エッ……。
「あの……」
「おやすみ」
高橋さんはそのままドアを開け、振り返ることなく部屋から出て行ってしまった。
『此処でいいから』
高橋さんのさっきの言葉は、まるでこれ以上、俺に近づくなと言わんばかりに制止をしてるみたいだった。
そうじゃないのに……。
そんなんじゃないのに……。
それなのに泣いてばかりいて、ちゃんと説明出来ずに高橋さんに嫌われてしまった。
暫くして、高橋さんに言われた事を思い出し、玄関まで足を引きずりながら辿り着いて鍵を締めた。
ドアの鍵の締まった音が深夜の静寂と相俟って、ひとりになってしまった部屋の中に響き渡った。
誤解は多分、解けないかもしれない。
高橋さんは、私に背を向けていた時、どんな瞳をして、どんな表情をしていたの?
ずっとソファーに座ったまま、あまり表に出ない高橋さんの表情を思い出しているうちに
優しい笑顔や悪戯っぽく笑う高橋さんの笑顔が浮かんできて、知らぬ間に泣きながら眠っていた。
良くないことは不思議と重なるもので、翌朝、目が覚めると、ソファーで変な体勢のまま寝てしまったせいか、或いは、もしかすると昨日転んだ時に打ったからか、身体中が痛くて変な筋肉痛になっていた。
それに輪を掛け、座ったまま横になっていたので、床に両足を着けていたから足が浮腫んでしまい、捻挫した左足首の湿布を取り換えた時に見ると、昨日、怪我をした時よりも更に腫れていた。

