新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

そう言えば、高橋さんが電話してる。
車に乗っているのに、珍しいな。高橋さんが携帯に出るなんて……。
そう言えば、エンジンは掛かってるけれど、車は動いてはいない。
今、どの辺なのかな?
ふと、窓から外を見て、あまりにも見覚えのある場所に驚いた。車はすでに私のマンションの前に着いている。
慌てて時計を見た。
嘘……でしょう?
満天の星空を見て帰る時、確か23時半頃だった。
そして、今は……2時半。
いくら何でも、行く時、私の家の傍を通った時から40分ぐらいでダムには着いていたはず。だとすると、どんなに掛かったとしても、帰りだって2時間は掛からないはずだから、少なくとも0時半前後には着いているはずなのに。
「高橋さん」
「起きたか?」
起きたかって……。
「あ、あの……何時頃、此処に着いたんですか?」
「ん? 0時過ぎぐらいだったかな?」
う、嘘でしょう?
「何で、起こしてくれなかったんですか? 2時間半も、何したんですか?」
別に、高橋さんが悪いわけではないのに、つい問い質してしまった。
「ああ……。お前、気持ちよさそうに寝てたから、そのまま寝かしといた。オマケの鼻から提灯出てたぞ?」
オマケの鼻から、提灯って……。
「な、何、言ってるんですか?」
「いや、事実を述べただけだ」
「高橋さん!」
「フッ……」
真顔で言った高橋さんだったが、その後、涼しげに笑っている。
何なの? 呆れて、何も言えない。
『そのまま寝かしといた』 って……高橋さん。何、考えてるのよ。
でも本当は、凄く嬉しい。だけど、嬉しいけれど、この後、高橋さんは自宅まで帰らなければならないことを考えると、とても心配で仕方がない。自分が高橋さんの車で寝てしまったのが、いけないのだけれど。
「週末は、ゆっくり休めよ」