新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

エッ……。
「キャッ……」
次の瞬間、高橋さんが私の両脇を持つと、その塀の上に私を乗せた。
な、何?
すると、高橋さん自身も手をついて少しジャンプして隣に座ると、先ほど持っていたもう1枚のブランケットを私の肩から掛けてくれた。
「あっ。私は、大丈夫ですから……高橋さん。使って下さい」
「俺は、大丈夫だ。いいから、お前掛けてろ」
肩からブランケットを取ろうとしたが、そう言って高橋さんは、ブランケットを掛け直してくれながら私の肩を叩いた。
温かいな……。
「此処さ……。昔、学生の頃、よく来たんだ」
「そうなんですか?」
そんな前から、高橋さんは来ていたんだ。
私の知らない、学生の頃から……。
「少し下のちょうど反対側にある、もう1つの駐車場からだと、同じように高台だから街並みの夜景が綺麗なんだが、此処は街灯も少なくて暗いから、本当に星が綺麗に見える。夜は、殆ど人も来ないしな」
後ろを振り返ると、少しだけ綺麗な町並みが遠く下に見えた。けれど、此処は高台で暗いから……だから、こんなに星が綺麗に見えるんだ。
「こうやって手を伸ばしたら、星に届きそうですよね」
思わず、右手を空に向かって伸ばしてみた。
「ハハッ……。必ず、そういうことする奴って居るんだよな。子供とか」
こ、子供って。
軽く子供扱いされて、ムッとしてしまった。
「俺は、星の名前も殆ど知らないが、此処でこうして見ていると、まるでプラネタリウムに居るみたいで綺麗だよな」
「本当に、そうですねぇ」
ああ。
今……この時間と、この空間。心も体も浮遊しているようで、今までの苦しかったことや辛かったこと等、全てを忘れてしまいそう。
星がこんなに近くに見えるこの場所で、高橋さんと2人っきり。さっきまで少し肌寒かったけれど、そんなことも忘れてしまっていた。
ちっとも、寒くなんかない。高橋さんの隣でこんなに綺麗な星空が見られるなんて、昨日までの私には想像すら出来なかった。
このひとときが、ずっと続いて欲しい。何時間でも、高橋さんと一緒に此処に居たいな。
そんな願いを込めて、星空を見上げていた。
「お前は、お前らしくあればいい」
エッ……。
不意に、隣に座っている高橋さんが、空を見上げながらそう言った。
「夏目さんには、夏目さんの良さがある。折原には、折原の良さがある。だが、それは夏目さんだから、折原だから、その良さが生きるのであって、夏目さんや折原の行動をそっくりそのまま真似をしたところで、夏目さんや折原と同じようにその良さが際立つとは決して限らない。何故だか、分かるか?」
高橋さんが、私を見た。
「それは、お前は夏目さんじゃないし、折原でもないからだ」
高橋さん……。