新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

「はい」
「ご承知の通り、私は現場の人間です。メンテナンスの件に関しては、営業が窓口になるかと思いますが、見積書作成にあたっては、私も目を通します。建築の人間も、同じく現場を廻っていますので、初期の見積もり概算はしっかり行ってもらいますが、メンテナンス作業には他の人間が担当になるかもしれません。ですが、最初に取り決めます工程内容と概算見積もりが一番重要ですから、そこは必ず詰めてくると思いますから」
何か、圧倒されてしまって、話を聞いているだけで何度も瞬きをしてしまっている。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「それじゃ……」
「あっ、先輩。私も、一緒に行きます」
「そう。じゃあ、一緒に」
折原さんが、慌ててバッグを持って夏目さんと一緒に立ち上がった。
「それじゃ、またご連絡させて頂きます」
「よろしくお願いします」
「今日は、ご馳走様でした。矢島さん?」
「は、はい」
ご挨拶をしようと思って立ち上がっていたが、いきなり名前を呼ばれて驚いて背筋をピンと張ってしまった。
「フフ……。また、いつかお会いしましょうね」
「は、はい。今日は、ありがとうございました」
夏目さんに声をかけられて、緊張しながらお辞儀をしていた。
「高橋。ゴチ! 矢島ちゃん。お疲れ様」
「折原さん。お疲れ様でした」
夏目さんと折原さんが部屋から出て行って、急に静かになってしまった。
あっ……。
折原さんも帰ってしまったってことは、高橋さんと2人きりってことで……。
「フッ……。何だ? あの折原の張り切りようは」
「えっ?」
「さて、落ち着いたところで、もう一杯お茶でも飲んで、俺達も帰ろう」
「は、はい」
高橋さんと2人っきりだと思ったら、また緊張してきてしまった。
「あの……」
「ん?」
店員さんに、お茶をお願いして持ってきてもらったが、今更、席を移動するのも変なので、そのまま高橋さんの隣に座ってお茶を飲みながら、先ほどの折原さんの話の続きを聞こうと思って高橋さんを見た。
「折原さん。何故、張り切ってたんですか?」