新そよ風に乗って ③ 〜幻影〜

夏目さんが、ビシッと言い切った表情を見て、思わず鳥肌が立ちそうになった。
「ありがとうございます」
「ただ、建築に関しては、どうしても私には無理です。数字が出せません。ですが、建築に関して、御社を建てた時の小林建設にうってつけの人物がおりますので、その者に話してみます」
「そうですか。何から、何まで、恐れいります」
「高橋さんと同じで、仕事一筋ですから」
高橋さんと同じ?
「数字に煩くて、建築の仕事だけはプライドが高くて絶対譲らないんですよ。だから人一倍責任感が強くて、現場で倒れて救急車で運ばれるまで働いてるぐらい、建築馬鹿です」
「先輩。そんなこと言って、いいんですか?」
建築馬鹿って……。
「いいのよ。本当のことだから。ああ、ごめんなさい。言葉悪くて。どうしても、現場にいると男社会なものですから。でも、大変ですよね。予算の枠もあるでしょうし……。高橋さん。色々、ご苦労もあるんじゃないですか?」
「そんなことないですよ。私は単に数字と睨めっこしているだけです。夏目さんのように、現場で働いていらっしゃる方の方が、どれだけ大変か。倒れるぐらいまで現場で働いて下さってる方々がいて、初めてビルは完成するわけですから。完成の裏にある見えない部分に、どれほどの努力が隠れているかを考えた時、出来上がったものをいかに大切に長く維持していくか。その責務は、重いです」
高橋さん……。
「そう言って頂けるだけで、この仕事に携われて良かったと思いますよ。高橋さん。メンテナンスの件は、またご連絡します。後、まあ……建築の方は、1回飲み会の席でも設ければ、もう……。低予算で見積もり概算もやってくれますよ」
「そうですか。それを伺って、安心しました」
「アッハッハ……。高橋さん。真面目なんだか、惚けてるんだか」
思わず、折原さんも私も笑ってしまっていた。
また、和んだムードになって、良かった。

高橋さんが席を立った時、折原さんがいきなりテーブル越しに身を乗り出してきた。
「矢島ちゃん。最初、勘違いしてたでしょ?」
「えっ? な、何をですか?」
折原さん。
相変わらず、鋭いな。
「だって、夏目さんが入ってきた時、表情が固まってたもの。まるで、お見合いの席に同席してるみたいにねえ?」
うっ。
痛いところを、突かれてしまった。
「そうなんでしょう?」
「そうなの? 矢島さん」