(そうだ。あのあとまた二人で飲んで……そのあとはフラフラになった私を朝霞さんが……)

「って、違う! 仕事!」

 美玲は時計を見て、慌ててシャワーを浴びると、仕事へ向かった。

「おはようございます」
「おはよう、藤咲さん。……あれ? 昨日まさか、終電逃した?」
「え?」
 
 デスクに荷物を置きながら挨拶をすると、会計管理者の猿渡(さるわたり)|《げん》は美玲を見て首を傾げた。
 
「昨日と同じ服じゃない?」

(そ、そういえばそうだった!)

「あ……えと、そうなんです。うっかり終電逃しちゃって」

 慌てて言い訳をすると、猿渡は困ったように笑って、
「そう。大変だったね。あんまり根詰め過ぎないでね」
「ハハハ……」

(危ない危ない。言い訳とか全然考えてなかった……)

 美玲は冷や汗を隠すようにトイレへ逃げ込んだ。冷や汗が引き平静を取り戻すと、トイレを出る。

「あ、藤咲さん。おはよう」
「おはようござ……」

 背後から声をかけられ、挨拶を返しながらくるりと振り返ると、その人は意味深な笑みを浮かべて美玲を見ていた。

「あ、朝霞さん」

(なぜ今、このタイミング……)

「おそろいだね」

 怜士も昨日と同じスーツを着て、美玲の元へ歩み寄ってきた。こっそりと耳打ちされ、これでもかというほど顔に熱が集まっていく。

「き、昨日のことは忘れるって話では……」
「ん? 俺は別に昨日のことを言ったつもりはないんだけど?」
「っ!」

(またも……)

「もしかして、昨日のベッドの中でのことも思い出した?」

 怜士は意地悪な笑みを浮かべ、美玲を追い詰めていく。

「おっ、思い出してません!」
「ははっ。じゃあ、今日も一日頑張ろうね」
「……もう」

 怜士はひとしきり美玲をからかうと、颯爽とエレベーターの中に消えていった。