放課後、彦星は保健室の自席で項垂れていた。
「大丈夫?」
 パソコンの横に置かれた白い鳥のキーホルダーが、嘆く彦星を見てため息を漏らす。
 カササギは、正体が人間たちにバレないよう、彦星のぬいぐるみキーホルダーに化けているのだ。
「なんで教師と生徒は恋愛禁止なんでしょう……天界はひどく理不尽だと思ったけど、人間界もどうかしてます」
「しっかりしなよ。年に一回しか会えなかったあの頃よりずっといいじゃん。今は毎日会えてるんだよ? ……とはいえ、問題だらけだな……この恋は」
「問題って?」
「だって、今の織姫にとって彦星は数いる男のうちの一人だ。恋愛対象でもなんでもない」
「そう……なのでしょうか」
「しかも、教師と生徒。あやかしと人。この恋は禁断だ」
 カササギの言葉に、彦星は頭を殴られたような気分になる。
 今の彦星と織姫は、プライベートなことを話すことすら躊躇われる間柄なのだ。天界にいた頃は、一日中ずっとそばにいられたのに……。
「追い打ちをかけるようなんだけどさ……今の織姫について、なんか変な噂聞いたんだけど」
「変な噂?」

 その瞬間、彦星の脳裏に、昼間の羽咲の言葉が蘇る。
 ――『男好きなんだそうです』
「なんでも、今の織姫は……ん?」
 カササギは窓の外を見遣る。そして、窓の外になにかを見つけ、じっと目を凝らした。
「なぁ……あれ、織姫じゃないか?」
「ん?」
 カササギの言葉に、その視線を追う彦星。見れば男子生徒に腕を引かれ、校舎裏に歩いていく織姫の姿があった。その様子はどこか険悪で、織姫は無理やり連れていかれているようにも見える。
 彦星は顔を真っ青にして駆け出した。