夏彦お兄ちゃんは、生まれてすぐ拡張型心筋症という心臓の筋肉が薄く広がって、弱っていく病気になったようだ。
治療をしてもらっていたけれど、それでもお兄ちゃんは体がずっと弱く入退院を繰り返したんだって。
結局お兄ちゃんは夜中に急に具合が悪くなって、早朝に息を引き取ったらしい。
これが原因で、お父さんはどんどんモラハラ気質へと陥った。
最初は、お母さんを優しく慰めていたお父さんだったけれど、だんだんその優しさの膜は剥がれていった。
『夏彦が死んだのは、お前のせいだ!』
『俺には全く非なんてない! お前の責任で! 夏彦はこうなった!』
『お前が夏彦を弱い体で産んだからだ! お前が夏彦を殺したんだ!』
と、いつもお母さんを怒鳴っていた。
お母さんは、静かに透明な雫を両目から流していて、何も言い返さなかった。
『無責任な母親が! お前は母親失格!』
幼い頃から、わたしはお父さんが何度もこう言っていたことを覚えている。



