「よう、百々葉」
「あっ、ひーくん」
帰りのホームルームを終えてからのことだった。
翠と一緒に帰ろうとしていたけれど、翠が教室にあったプリントを持ってくるのを忘れたらしく、取りに戻ったのでわたしが下駄箱で待っていると、ひーくんに会った。
なんでかなぁ……。
なぜに、ひーくんに話しかけられただけでこんなにむずむずしてくるんだろう。
「遅刻なんてしてきて、大丈夫だった?」
「ああ、それはいいよ。もうクラスの奴にノート見してもらったから」
ひーくんはそう言いながら、わたしが思っていたよりもあっけらかんとしている。
「百々葉は、どうなんだ? あれから授業さぼっておいて、あの後のはちゃんと受けたのか?」
「うん、行ったよ」
いくら信じていた人に裏切られていたといえど、さすがに学校に来ておいて、全部授業をさぼるだなんてできないよ。
翠にも心配をかけちゃうし、先生にも迷惑だし、なんにせよ長い間そこまで隠れる場所がないし……。
あったとしても、先生が気になってこのことを家に電話でもかけたら、お母さんがどうなっちゃうか分からないもの。
お母さんの気持ちを、穏やかにするために恵理奈や、もう1つ上の姉・沙也加(さやか)と頑張っているんだから……。



