【コミカライズ】そんなことも分からないの?

「殿下⁉ いったいなにを……」

「これまで君と接してきた人間から、陳情が複数出ているんだ。イザベルから『そんなことも分からないのか?』と問われることで、どこにいても、なにをしていても萎縮してしまう。苦しんでいると。
自信を喪失し、既に辞めてしまった者も多数いる。
僕が君の妹に会いたかったのは、そういう実情を話したかったから、という理由もあるんだ。二人きりのときに話をしても、君は全く取り合ってくれなかったからね」


 困惑しきった様子のイザベルに、王太子は淡々と事実を伝える。
 これまで誰かに否定をされた経験がなかったイザベルは、驚愕に目を見開き、ワナワナと唇を震わせた。


「けれど! わたくしの側に仕えるからには、知識を得る努力をするのは当然のことです! 向上心を持つべきです! そんな当たり前のことがわからないなんて――――」

「君のものさしで物事をはかるな」


 イザベルの言い分をバッサリと切り捨て、王太子は小さくため息を吐く。


「『君の当然』と『他人の当然』は全く異なる。『君がすべきだと思うこと』と『他人がすべきだと思うこと』も当然異なる。
もっと人の声に耳を傾けろ。心に寄り添え。
王太子妃に求められる能力は、知識でも判断能力でもない。
――――君は、そんなことも分からないのか?」


 それは世界中のどんな言葉よりもイザベルの心に響いたのであろう。彼女はその場に座り込み、呆然と言葉を失った。