彼女は部屋から出ていった。

 彼女が落ち込んでいたようにみえたのが気になって、リビングをそっと覗いた。琉生が彼女を噛もうとしていた。

 もしもヴァンパイアの琉生が人間の彼女の血を吸えば、(つがい)となり、二人とも他のヴァンパイアや人間とは結ばれなくなる。そして彼女も永遠の命を得て、ふたりはずっと一緒にいることになる。

 気がつけば必死にそれを止めていた。

 琉生が人間と恋をして、裏切られたり傷ついたりしてほしくないから?
 いや、今僕はふたりが番になるのを想像して、嫉妬して。だから止めた。

 ダメだ。彼女が僕たちの近くにいると全てがぐちゃぐちゃになる。僕の心の中も。やがては琉生と僕との関係も壊れてしまう気がした。

「もう、僕たちに関わらないでほしい」

 彼女に強くそう言うと、彼女は、はっとした表情をした。

「分かりました。琉生くん、ばいばい」

 彼女は僕たちに背を向けた。

「まって! 家の近くまで送るから」

 琉生の言葉を無視して、彼女は一切振り向かずに家を出ていった。