あっという間に解散の時間。

 彼は立ち上がり、身体を思い切り伸ばした。なんとなく私も真似をした。

 そしてタクシーを呼ぶために彼はスマホを操作し始めた。

 私は離れたくなかった。
 帰る頃にはもう、彼に対する自分の気持ちの答えは見つかっていた。

 もうちょっと一緒にいられる口実を探す。

「あ、あのね、野鳥図鑑、ずっと借りっぱなしだったよね? うちにあるんだけど、返すよ。うち寄ってってもらっても良い?」

 彼から借りた野鳥図鑑は今、家のテーブルの上に置いてある。ここに来る直前まで、この場で返そうかな?って考えたりもした。でも返しちゃったら彼との繋がりが完全になくなっちゃう気がして……。どうしようか迷ったあげく、家に置いてきてしまった。


 スマホを操作していた彼の手が止まる。

「……うん」

 予想外の返事が。

 彼なら「いや、いいよ。あげるよ」って言うかもなって想像もしてたのに。

 
「住んでるアパート、近いから……。いや、そんなに近くないか。でも歩きたい気分だから、歩きでもいい?」

「うん。大丈夫だよ」

 私が質問すると、彼がそう答えた。

「少しでも長い時間、絢人くんと一緒にいたくて……」

 つい本音がこぼれる。

「あぁー……」

 突然その言葉を聞いた彼は唸りながらしゃがみ込んだ。

「えっ? 大丈夫?」

「僕、席替え、したくなかったんだ」
「えっ?」
「ずっと、君の隣の席でいたかったんだ」
「いきなり、何?」
「高校時代の話だよ。もう、ずっと好きだったんだよー。今も……」

 彼は頭を抱えだした。
 明らかに様子がおかしい。

 しかも今、私のこと好きだったって言った?
 

 胸の鼓動が高まる。

 彼、酔ってる?
 今の発言、酔ってるからだよね?

「酔ってる? 大丈夫?」
「酔っぱらってないですからね! お酒強いんですから!」

 いきなり敬語。
 取り乱した絢人くんを初めてみた。
 全く嫌じゃなく、むしろ可愛くてもう少しその様子を眺めていたい。

 
「とりあえず、絢人くんが落ち着くまで公園のベンチに座って、休んでく?」
「うん。ごめん」
「謝らなくても大丈夫だよ」

 彼が落ち着いたら、さっきの発言について、訊きたい。


 なんだかこれからはずっと、絢人くんの隣の席にいられる、そんな予感がした。
 
❀.*゚